豊田信夫●住友電装 西部第1事業部。第2生産技術部 担当部長。1983年、早稲田大学理工学部卒業、住友電気工業入社。半導体材料などを担当。2005年より現職。

熟成したノウハウを伝えるため、300人の従業員のうち、年間約40人が、1カ月程度の海外指導に携わる。このうち組立一掛主任補佐の谷尚子さんは、これまで、タイ8回、インドネシア6回、南アフリカ3回など計28回の海外出張を経験。工場長の豊田信夫さんは紹介の際、「彼女はわが社の宣教師です」といった。

四日市工場は、2009年のPK評価で100点満点中96点をとり、世界1位になった。だが、初めて実施したときには、45点という屈辱的な点数だった。谷さんは当時を次のように振り返る。

「天井から電灯が吊ってありますよね。PK評価の審査員が、脚立を持ってきて、わざわざ4メートルの高さにまで上る。そして、電灯の傘を指でぬぐって、『はい、これは0点ですね』というんです。なぜこんなことをするのか。初めは納得できませんでした」

電灯の傘に溜まったほこりは、いずれラインまで落ちてくる。ハーネスの端子に詰まれば、接触不良を引き起こす恐れがある。電灯の傘を拭く理由は明確だ。ただし、そこまでやる必要があるのか。これまでのやり方ではダメなのか――。職場には不穏な空気が漂った。だが、役員の肝いりで始まった取り組みだ。無視はできない。

PK評価の結果は、工場単位で出される。モデル工場である四日市工場が50点もとれないのではみっともない。谷さんは、自ら率先して掃除をすることで、周囲の意識を高めていったという。

「初めは現場にも『やらされ感』がありました。でも、渋々ながら続けていくと、工場がキレイになるのが肌で感じられるんです。まめに拭き取る、元の場所に片づける、目視で確認する……。そういったルールがきちんと守られるようになると、能率や品質も徐々に上がってきます。そのうち、みんなも『やっぱりキレイにしなきゃあかん』と意識が変わる」