プーチンの意思を読み切れなかった日本

〇一年三月のイルクーツクでの森首相との首脳会談では、五六年宣言や東京宣言を尊重するとしたイルクーツク声明に署名した。

この時、プーチンは森首相に「五六年宣言への言及はロシア首脳として初めての困難な発言だった。国民には、宣言自体を知らない人も多い」「今は難しいが、自分がもう一期大統領をできれば、二島を返還できるよう全力を挙げたい」と語りかけた。

〇二年十月、訪露した川口順子外相に対し、プーチンは「過去からの問題が残っているために平和条約がないことはまことに悲しむべきことで、辛いといっても過言ではない。いや、最も遺憾なことである。日露で一緒に取り組んでいきたい」と意欲的だった。

柔道愛好家のプーチンは日本に敬意を持ち、領土問題にも真剣に取り組んでいるとのイメージを日本に与えた。だが、日本側は二島で最終解決とするプーチンの意思を十分読み切れていなかった。

流れが変わったのは、〇五年九月二十七日の「国民との対話」だった。プーチンが鳴り物入りで出演する「対話」は正午ごろ始まり、時差の関係でまず極東が登場するが、この時は北方領土を統括するサハリン州から最初の質問が出た。

赤の広場
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「日本との問題をどう解決するのですか」に対し…

【質問】「デニースです。サハリン国立大学の二年生です。出身はユジノクリリスク(国後島の古釜布)で、サハリンで学んでいます。多くの仲間が島からサハリンに来て勉強しており、共通の質問があります。卒業後はクリール(千島)に貢献したいです。質問は、われわれの島をどう発展させ、まともな生活、まともな仕事をするにはどうしたらいいですか。それと日本との問題をどう解決するのですか」

【プーチン】「日本とのどんな問題かな」

【質問】「南クリールを日本に引き渡す問題です」

【プーチン】「われわれは極東発展の連邦計画を推進しており、それをやめることは一切ない。だから、君や仲間は安心してそこで生活し、学び、働いて欲しい。日本との南クリールの四つの島をめぐる問題だが、これらはロシアの主権領土であり、そのことは国際法で確定している。それは第二次世界大戦の結果の一つだ。この点について討議する必要は全くない。この立場に基づいて、交渉する用意があり、現に交渉している。

われわれは日本を含むすべての隣国との国境問題を解決したい。日本とは善隣関係があり、毎年強力になっている。両国とも、経済、文化、ビジネス関係を発展させたい客観的理由がある。君が提起した問題はむろん、両国にとって微妙な問題だ。善意を示せば、両国や両国国民、島の住民に利益のある解決策を探せると思うし、できると確信している」