物書きが締め切りギリギリまで仕事を始めないワケ

といった次第で、半端に作業が簡単だったり自尊心を満足できそうになかったり、逆に無理難題で途方に暮れてしまうようなときには、集中が難しくなってしまいます。

しかしそうした条件の多くは、わたしたちには変えようがない。

せめて気の持ちようということで、いかに自分自身を説得できるかを考えるしかない。

顔見知りの物書きの少なからずが、締め切りぎりぎりまで仕事を開始しないのは、どうやらそのこと自体が上記に挙げた四つの条件を確認するための儀式ではないかという気がします。

「やる気スイッチ」を押す薬は存在しない

やる気の出る薬、集中力が高まる薬はないのかと尋ねられたことがあります。その答は、残念ですが「否」ですね。

精神科領域の薬は、一般的に気持を落ち着かせたり安定させることを目指します。ベクトルとしては、気分を昂ぶらせるのと正反対ですね。抗うつ薬の一部は気分を底上げする作用を持ちますが、下手な使い方をすると気分が前向きにはならず、むしろイライラや焦り、怒りっぽさや衝動性などが前景化してしまう。

一時期はADHD患者に用いられたことのあるリタリンが、「やる気スイッチ」を押す作用があるなどと取り沙汰されましたが、あれは覚醒剤に近い。

手のひらに薬の錠剤を出す女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです

なるほど覚醒剤は異常に集中力が高まったりしますが、そのぶん、あとでツケがくる。深刻な後遺症が生じてその治療はきわめて困難なことが多い。

薬剤に期待するのは諦めたほうがいいです。せいぜい、濃いコーヒーといったところでしょうね。

ここまで読んで「結局、集中力を高める方法はないのかよ」と不満に思う読者の顔が思い浮かびます。わたしとしては、魔法の方法なんかありませんと言うしかないのですけれど、さすがにそれでは不親切だ。そこで、いくつかヒントを示します。

被害者意識を抱いてはいけない

集中力はモチベーションと深く関わりますが、大切なことのひとつとして、被害者意識を抱いたらアウト、というのがあります。そもそも集中できないのは、その作業というか仕事を行うこと自体気が進まないから、といった場合が少なくない。

上司から押しつけられたろくでもないノルマとか、内心くだらないと思っているミッションとか、そういうものがまことに多い。

そうなりますと、そんなことを強制させられる――それどころか、集中力を発揮しなければ取り組めないような面倒なミッションであったりしますと、自分が被害者であるような気分になりやすい。

たしかに被害者に近いケースは珍しくありませんよね。でもそこで「オレは被害者なんだ」と思ってしまうと、腹が立つばかりでモチベーションをますます低下させてしまう。

結局自分が損をするだけになってしまう。被害者意識は妙な形で自己正当化に与しますから、なおさらムカつくばかりになってしまう。