自衛隊が「有事」に迅速かつ的確に対応できるワケ
このような規律が強く求められる組織の中で、上司の命令の重さは一般の組織とは大きく異なると考えられます。それは、常に「有事」の可能性を意識しているためです。階級があることの意味は、待ったなしの状況が起きたとき、最上位者が誰なのか、つまり指揮命令系統を明らかにするところにあります。それにより上位者が決断を下し、指揮命令の系統を通じて迅速かつ的確な対応がとれることが期待されるわけです。
「階級があるから、指示や命令をしやすい面もあるし、上から言われたら、基本的にはそれに従わなければいけないというのが体に染みついています。そういうものですよね。自衛隊は指揮命令で動いている組織なので」
この発言にあるように、階級の必要性、上からの命令に従う意識は体現化されているといえます。
しかし、自衛隊の組織は上司に意見が言えない、ということではないようです。職務上の命令については、命令系統を強く意識して、上官の指揮下に入ることを当然にこなす自衛官ですが、普段の職場では、自分の意見を具申する場面も少なくないようです。意見を交わすことを前提として、最終的な判断をするのはその中の最上位の者となるということです。
上官の判断は、多くの隊員、時には何万、何十万という国民の命に直結するものとなるため、影響力は極めて大きいものがあります。有事に対応するという特性上、個人がそれぞれに判断を下して動いてしまえば、相手に隙を与えることにもなりかねません。
知らない相手でも「階級に対して敬礼」
このような明確な階級社会について、女性自衛官はどのようにとらえているのでしょうか。自衛隊のことをよく知らない入隊前には、階級への疑問もあったようです。
「私は一般大学から自衛隊に入隊したので、防大出身者は上官の指導とかに耐える辛抱強さがすごいなと思っていました。入隊当初、人に敬礼するという文化がよくわからなくて、防大出身の子に、知らない相手になぜ敬礼するのかと訊いたら、『その人に対して敬礼しているわけじゃない。階級に対して敬礼しているんだ』と言われて、ああそうなのだと納得できました。組織の特性上、自衛隊で働く以上は階級はあった方が良いと思っています」
この発言からは、自衛隊は相手の階級に対して敬意を示す組織であることがわかります。ただ、階級によって厳格に律せられていることについて、窮屈に感じることはないのでしょうか。一般にピラミッド型の組織は、「男社会」の象徴といったイメージもあります。