「おっさん的マインド」が招いた企業の不祥事
平成という時代は、しばしば「失われた30年」と表現されます。バブル崩壊後、景気も雇用も冷え込み、日本全体が長らく元気さ、明るさを失っていました。そのため「おっさん」たちは、企業に蔓延する「後ろ向きな空気」をいっぱいに吸い込んで生きてきたわけです。するといつの間にか年功序列にしがみつき、権力者に付き従い、長いものに巻かれるのが「安全」だという思考に陥ってしまう。その結果、なにが起きるか。会社をより良い方向に発展させたり、社会に貢献する仕事をしたいという「大義」よりも、目先の「帳尻合わせ」が先に立ってしまうようになるのです。
2011年に粉飾事件で上場廃止の瀬戸際まで追い込まれたオリンパス、2015年に不正会計が発覚して以降さまざまな問題が露呈した東芝、2021年に組織的な検査不正が発覚した三菱電機など、近年、日本を代表する企業で数多くの不祥事が起きていますが、これらはまさに「おっさん的マインド」が遠因となった事件ではないでしょうか。
池井戸潤さんの小説『オレたちバブル入行組』(文春文庫)で描かれ、大人気テレビドラマにもなった半沢直樹は、まさにそんな「おっさん」たちと同世代です。半沢は上司や重要な取引先、巨大な権力を敵に回してでもけっしてブレることなく「大義」を貫きます。偉い人の前では絶対服従、大義よりも組織の論理――そんな大人には絶対なりたくない、半沢のようになりたいと、かつては考えていた人たちが、その理想を曲げて「おっさん」になってしまっている現実があるのです。
中高年男性=「おっさん」ではない
こうやって「おっさん論」を展開していくと、「谷口真由美は中高年男性の敵や!」と激怒する方もおられるかもしれません。しかし、実は「年齢」「性別」は決定的な問題ではありません。私の定義する「おっさん」は中高年男性に限って存在するわけではありませんし、もちろん大義と胆力でいくつになっても「おっさん」にならない男性だって多いのです。それに、若い人でも、女性でも「おっさん体質」の人はいます。難しいのは、男性社会のなかで活躍している女性にも、「おっさん」が少なくないことです。私はそんな人たちのことを、「オバハン」と呼んできました。
森喜朗さんが、五輪組織委の女性理事たちを「みんなわきまえている」と評して問題となりました。もちろんこれは森さんが話しているだけで、実際のその女性たちがそうなのかはわかりません。ただ、男性中心の常識で回っている組織において引き上げられた女性のなかには、「わきまえるタイプ」が非常に多いことも事実です。あなたの周りにも、たいして仕事ができるわけでもないのに、はるか年上の男性上司に寵愛を受けることで組織内に大きな影響力を持ったり、異例の出世を遂げたりする女性はいませんか?
「ジジ殺し」なんて言葉がありますが、「どうしたらおっさんの機嫌とプライドを損ねないか」を熟知しているコミュニケーションスキルの高い女性が、もし「大義」や「組織の未来」よりも「自分の利益」「保身」を優先する利己的なタイプだった場合、それはかなり厄介な「おっさん」と言えるかもしれません。ただし、それは彼女たちの生存をかけた「生きる術」とも言え、女性が組織でマイノリティである間にこの批判を女性たちに向けるのは酷というものですが……。