演劇を鑑賞する客層が高齢化している
あるとき、演劇業界に在籍するという読者から、かれが身を置く業界の行く末を憂慮する手紙を受けとったことがあった。コロナによる興行中止や規模縮小のあおりを受け、数字でも目に見えて業界はいま苦しい状況にあるが、それとは別に憂慮すべき「懸念材料」が、このパンデミックが始まる前からあったのだという。
すなわち、客層の高齢化である。
手紙の送り主は、いまの主たる顧客がいなくなってしまえば、それと一緒に舞台芸術も商業的に成り立たなくなってしまうのではないかと不安を綴っていた。そして「なぜ若者は舞台芸術に親しまなくなったのでしょうか?」と締めくくられていた。
舞台の観劇にやってくるのは、実際のところ中高年世代が中心であり、20~30代の若い世代は(マンガやアニメ作品とのメディアミックス的な位置付けであるいわゆる「2.5次元」と呼ばれるジャンルを例外として)たしかに舞台鑑賞を趣味にしている層は少ないだろう。
今の若者は「効率的」に生きることを求められている
舞台や演劇がつまらなくなったからではない。演者や脚本の質が低下して、業界が地盤沈下を起こしたとか、そういうことではまったくない。むしろ業界の質はむかしよりいまの方が向上している部分も大きいだろう。それでも、現状のままでは生き延びていくのは難しい。長期的展望で見たとき、衰退は避けられない。いまのままでは、いまの顧客である中高年層の退場にともない、いずれ本当に市場どころか文化そのものが消え去ってしまっても不思議ではない。
これは、演劇業界のせいではなくて、社会構造や時代精神の変化の影響が大きい。
若い世代の多くは娯楽として演劇や舞台をあえて選ばない。それは演劇がつまらないからとか、舞台芸術がわからないからとか、そういうことではない。いまの若い世代は「効率的」に生きることを否応なしに求められているからだ。
かれらはつねにタスクが詰まった忙しい日々のなかで生きている。けっして潤沢に与えられているわけではない有限の可処分時間のなかで、インターネットやソーシャルメディアを介して、毎日大量に供給される娯楽コンテンツの消費に追われている。