そんな中で、下水処理場で下水を藻に浄化させ、同時に繁殖させ、それを使うという方法の実現に向かって動き出したわけです。下水処理と藻類の培養を統合して燃料生産にもっていかないと、コストの問題、環境負荷の問題から実現困難だということは前から言われていました。

ただ、日本のような狭い土地で、温度の変動、光の変動を考えながら、エネルギー収支を適正化するのはなかなか難しかったのです。

藻には、光合成で増える藻、光合成ができなくなり有機物から炭素源を摂って増える藻、そして、その両方を行う藻の3種類があります。私が注目したのは、この両方を行う藻「混合栄養藻類」でした。

EUの有力科学誌に論文が掲載される

下水処理では、有機物や窒素、リンを取り除くために膨大なエネルギーとコストをかけています。その有機物や窒素、リンとCO2を取る過程を藻が行い、下水をきれいにする。ただ、これが単一種のエリート藻類(増殖がよく、オイル生産が高い種)だと、環境の変動により好ましくない環境では急激に増殖が悪化するので、バイオマス生産が安定しない。

そこで、単一のエリート藻類ではなくて、その土地土地に住んでいる、いわゆる雑藻類、土着の藻類を使ってみたら生産が非常に安定していたのです。

また、光合成だけで増える藻は、深さ0.2メートル以内でないと増殖が難しいのですが、混合栄養藻類は深さ1.4メートルのタンクでも増えた。これによって藻類による単位面積あたりの下水処理量も格段に変わり、つまりは培養面積の問題も解決され、より現実化してきたのです。

混合栄養藻類は深さ1.4メートルのタンクでも増えた。
写真=渡邉信研究室
混合栄養藻類は深さ1.4メートルのタンクでも増えた。

具体的には、茨城県西部の小貝川東部浄化センターに藻類培養装置を設置し、下水の一次処理水を使って藻を培養、実証実験をしました。そして、1.4メートルの高深度で1年間実験を続け、その主要な成果を紹介したレビュー論文を、EUの国際的科学誌「energies」に投稿しました。すると、2021年10月20日、論文受理の連絡が届いたのです。

実証実験が行われた茨城県・小貝川浄化センター
写真=渡邉信研究室
実証実験が行われた茨城県・小貝川浄化センター

論文のタイトルは「Biocrude Oil Production by Integrating Microalgae Polyculture and Wastewater Treatment:Novel Proposal on the Use of Deep Water-Depth Polyculture of Mixotrophic Microalgae」(微細藻類ポリカルチャーと廃水処理を融合したバイオ原油生産:混合栄養藻類の高深度ポリカルチャーの新規提案)。論文では「混合栄養藻類」が下水処理場でどれだけ育ち、それを原油化した場合、どうなるかを試算しました。