「若者や子育て世代は投票に行かないから政策が手厚くない」というのは本当だろうか。東京工業大学の西田亮介准教授は「年長世代を優遇する政策が行われているのは明確。だが、それは投票率のせいとは限らない」という――。

※本稿は、西田亮介『17歳からの民主主義とメディアの授業 ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

選挙で投票する人の手
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高齢者層を優遇する政策は多数行われている

【生徒】マイノリティや若者、子育て世代は投票しないから政策が手厚くないのですか?
【先生】「手厚くない」かどうか厳密に立証することは難しいですが、年長世代を優遇する政策が行なわれているということは明確です。

年金の給付水準に関して、物価が下がるデフレ下においては年金の給付水準も下げないと釣りあいません。

物価は下がっているのに給付額が変わらないなら、実質的には年金の給付水準=価値が高いことになりますよね。日本は「失われた30年」などと呼ばれる超低経済成長社会で、長いデフレ状態です。

少子高齢化等で負担と給付のバランスも崩れています。そこで年金支給額の抑制のためにマクロ経済スライドという考え方を2004年に小泉政権が導入しました。ただ、給付引き下げを行なうと高齢者からの反対があるということで実施が2015年度まで遅れました。結果、年金財政に影響を与えたということが知られています。高齢者優遇の例です。ただし、いくつかの研究では医療費の伸びは高齢化だけでは説明できず、医薬品価格など、他の要因にも目を向けるべきという指摘もなされています。

また、70歳以上の高齢者の医療費負担は長く無料でしたがいまは1割で、2022年から2割になります(年収制限あり)。これも高齢者優遇と言えるかもしれません。

若者の投票率が低いことが直接の原因かどうかはさておき、ボリュームが多くて、投票率が高い、つまり政治的影響力の大きな高齢者を優遇するような政策が多数行なわれています。

若者や子育て世代は「数」で明らかに不利

ここでちょっと考えてみていただきたいんですけど、団塊世代(1947~1949年生まれ)の出生数は厚生労働省の統計によると806万人です。その子どもにあたる団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)が各年、出生数200万人を上回るぐらいでした。

最近はどうかというとご承知のとおり100万人を大きく割り込んで、出生数80万人台になりました。

いまの20歳代の場合、120万人を割るか割らないかくらいですね。

さて、選挙に直接影響を与えるのは投票率ではなくて、投票数です。

投票率も高いほうがいいのかもしれませんが、政治家にとってみればやっぱり何票取れたかということが重要です。そう考えてみると若い世代の場合、絶対的に数が足りないんですよ。

政治家は「若者や子育て世代は投票しないから、あなたたち向けの政策ができない」などと無茶苦茶なことを言っています。若者と政治に関する政治家のインタビューで、よく見かける論調です。

でも、若い人たちはもともと人口が少ないわけですから、年長世代と同じような政治的影響力を持つことはできません。

だから若者や子育て世代が投票しないから政策を手厚くできないなどという政治家や政党を信頼するな、そういう人たちに投票するな、とぼくはいつも思っています。