回転すしチェーン「くら寿司」では、5皿ごとに1回、景品の当たるガチャを遊ぶことができる。この「ビッくらポン!」の景品にはかなり力を入れているという。その理由には「業界のイノベーター」としての歴史があった――。

スマホを使えばサイドメニューも対象に

回転すし業界売上2位のくら寿司の業績が好調だ。2021年10月期の国内売上高は1315億円で過去最高を更新した。好調の背景には感染症対策へのいち早い対応など、さまざまな要因があるが、そのひとつに「ビッくらポン!」がある。

くら寿司のテーブルには、食べ終えた皿を入れる投入口がある。「ビッくらポン!」は5皿につき1回遊べるゲームで、当たりが出ると景品がもらえる。これが集客に貢献している。最近では、人気アニメ『鬼滅の刃』とのコラボ企画が話題を集めた。

ゲームを遊ぶには皿を投入する必要があるので、これまではサイドメニューやデザート、ドリンクは対象外だった。それが21年12月に全店導入が完了したスマホアプリ「スマホdeくら」を使えば、皿の枚数だけではなく、お皿以外の商品でも550円(税込)ごとに1回抽選を受けられるようになった。

くら寿司広報部の小山祐一郎さんは「回転寿司チェーンでサイドメニューの拡充を進めたのがくら寿司。サイドメニュー拡充に伴うお客様のニーズの高まりに対応できるように努めた」と話す。

今年2月、筆者は家族を連れて店舗を訪ねて、「スマホdeくら」を試してみた。筆者がスマホから注文したサイドメニューは「完熟マンゴー」(税込330円)と「なめらか豆乳アイス」(税込200円)と「胡麻香る担々麺」(税込450円)の3品。テーブルに商品が届くとスマホ画面の右下のゲージに980円が加算され、ビッくらポン! 1回分になった。この日、家族3人で食べた皿の枚数は合計25枚。投入口からは5回分だが、スマホアプリの1回分が加わり、あわせて6回抽選した。

店内の様子。「抗菌寿司カバー鮮度くん」つきの皿が流れる。大手回転寿司チェーンで寿司カバーがあるのはくら寿司だけ。
筆者撮影
店内の様子。「抗菌寿司カバー鮮度くん」つきの皿が流れる。大手回転寿司チェーンで寿司カバーがあるのはくら寿司だけ。

広報部の小山さんは「当選確率を公開すると楽しみが減ってしまうので、非公開にしています。「一定金額以上の会計でプレゼント」という手法もありますが、当たりはずれがあるのも楽しんで頂ける理由の一つと思います」と話す。

「水回収システム」開発のきっかけは“女性の乙女心”

「ビッくらポン!」の導入は2000年12月から。当時はタッチパネル導入前で、ルーレット式のアナログなゲームだったという。その4年前には、レーン下にある水路でテーブルから洗い場まで皿を運ぶ「水回収システム」を導入している。「ビッくらポン!」はそのユニークな仕組みに楽しさを付加するためのゲームだったという。

では、そもそも「水回収システム」はなぜ必要だったのか。それは創業者である田中邦彦社長が「ファミレスのような家族団らんで楽しめる店にしたい」と考えたからだった。

創業当初のくら寿司は、すし職人がレーンの中にいた。職人の目が気になるため、家族連れや女性客が気軽に入れる雰囲気ではなかったという。一方、当時はファミリーレストランの全盛期。田中社長はボックス席を主体にすしを運ぶレーンを直線型に配置し、厨房と客席を分けることで、雰囲気を一変させた。

「当時の女性の心理としては、テーブルの上にたくさんの皿を積み上げるのはちょっと恥ずかしいものでした。いかにして皿を隠すか考えた結果、ポケットに投入した皿の枚数をデジタルでカウントする方法を思いついたそうです」(小山さん)

水回収システムの投入口。すぐに水に浸されるので、シャリなどが皿にこびりつかなくなるという店側の利点も。
筆者撮影
水回収システムの投入口。すぐに水に浸されるので、シャリなどが皿にこびりつかなくなるという店側の利点も。