マレリの行方を握る中国大手行の動き
かりにADRが成立しない場合、法的整理(経営破綻)に進む可能性があるが、岸田政権にとって大型倒産は政治的に受け入れられるかは疑問だ。実は、政府は昨年6月に産業競争力強化法を改正し、事業再生ADRを成立しやすいように措置していた。いわゆる「ごね得」を防ぎ、大型倒産を回避するためだが、期せずしてマレリがその試金石になった格好だ。
その鍵を握ると見られているのがマレリに融資する外資系金融機関の存在だ。「ADRは全員一致が前提。日本の金融機関だけであれば、予定調和的に合意形成ができるが、外資系金融機関にはそれが通用しない」(メガバンク幹部)という。そのマレリに融資する外資系金融機関について関係者が明かすところによれば「中国の4大銀行の一角である中国建設銀行のほか、Bank of China、第一商業銀行、Mega Bank DBSが融資している」という。中国の大手銀行が入っていることは厄介だ。
このため、「外資系金融機関のマレリ向け債権をメインバンクが買い取る、いわゆるメイン寄せも検討に値するのではないか」(マレリに融資する金融機関幹部)との意見も聞かれる。「仮にADRが成立しても、その後の再建計画をスムーズに進めていくためにはすべての取引金融機関の協力が不可欠だ。その際、考え方が異なる海外の金融機関が債権者として残っていてはやりにくいのではないか」(同)というのが理由だ。
自動車業界も経営破綻させるわけにいかない
いずれにしても日産をはじめとした日本の自動車業界にとって、重要な部品メーカーであるマレリを経営破綻させるわけにはいかない。同様に株式を保有するKKRにとっても法的整理に移行すれば持株は紙くずとなる。ぎりぎりの折衷案がADRということであろう。
マレリは日本の自動車用ラジエーター分野を牽引した「日本ラヂエーター製造」が原点であり、2000年に日産系の自動車部品メーカーである「カンセイ」と合併し、「カルソニックカンセイ」となった。2015年には売上高が1兆円を突破したが、16年に日産が全株式をKKRに売却すると発表。翌17年3月にKKRが約5000億円を投じてTOB(株式公開買い付け)を行い完全子会社化し、日産グループから離脱した。同年5月には東証1部から上場廃止した。
そして、2018年にフィアット・クライスラー・オートモービルズの自動車部品部門であったマニエッティ・マレリを62億ユーロ(約8100億円)で買収し、世界7位の独立系自動車部品メーカーに踊り出た経緯がある。被買収企業でありながら「マレリ」の名称が残されたのは、買収にあたりイタリア政府が国内工場の保全と、社名の存続を求めたためであり、「マレリ」の世界的な知名度を考慮したものである。