解体費用がかけられず相続した家が空き家になる

なぜ、日本では空き家が増えたのでしょうか?

まず、世帯数の増加をはるかに上回る住宅の新規供給が続いたことがあげられます。2014年度から2018年度の5年間における住宅新設着工戸数は約467万戸、住宅の滅失戸数は約56万戸で、総住宅数は約411万戸増加しました。

この間、世帯数の増加は約211万世帯であり、結果として約200万戸の住宅余剰が発生しています。このように、日本の住宅市場では超過供給が継続して発生しており、空き家増加の一因となっています。

また、相続も空き家が増加した要因のひとつです。国土交通省の「平成26年空家実態調査」では、空き家となった住宅の取得経緯を調査していますが、空き家の56.4%が相続によって取得したものとなっています。

コストの問題も空き家が増加した理由としてあげられます。相続等により家を取得した者が、家屋解体等の費用の問題から、空き家のままにしているケースが少なくありません。実際、前述の国土交通省の調査では、空き家にしておく理由として、「物置として必要だから」に次いで、「解体費用をかけたくないから」が2番目にあげられています。

ツタに覆われた廃屋(2020年4月4日大阪市)
写真=iStock.com/decoplus.inc
※写真はイメージです

税制も空き家の増加を促したと考えられています。土地に建物が建っている場合、固定資産税が最大6分の1、都市計画税が3分の1になる住宅用地の特例措置について、2014年度までは空き家を含むすべての住宅に適用されていました。そのため、土地にかかる税金を安くするために空き家を放置する人が大量に発生し、問題となっていました。

しかし、この制度については、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」によって、空き家に関しては住宅用地の特例が適用されなくなりました。

「根強い新築信仰」課題は中古市場の活性化

根本的な問題は日本の中古住宅市場にあります。

中古住宅市場が活発であれば、相続した一戸建てや分譲マンションを中古住宅として売買できるので、相続等で家を取得した人は空き家のオーナーになる必要はありません。しかしながら、日本では既存住宅を買う人が多くないため、流通も少ない状況です。

既存住宅の流通について、国ごとに比較したデータも見てみましょう。全住宅流通量(既存流通+新築着工)に占める既存住宅の流通シェアは、日本では2018年に約14.5%となっていますが、これは欧米主要国に比べると6分の1から5分の1程度の低い水準です。既存住宅の流通シェアはアメリカでは81%、イギリスでは85.9%とともに8割を超えています。フランスは69.8%と少し低くなりますが、それでも日本の5倍近い水準となっています。

日本で既存住宅の流通が乏しい理由としては、住宅に関する情報の非対称性があげられます。消費者は中古住宅を購入する際に、その品質や隠れた不具合などについて不安を抱えているものの、住宅の性能が明らかにされておらず、買い手と売り手の間に情報の非対称性が生じています。特に、木造戸建ての住宅については、築後20年程度で一律に価値をゼロと評価する慣行が存在するなど、中古住宅の価格付けにマーケットメカニズムが働いていない現状があります。

また、新築購入を重視する政策が長期間にわたり進められてきた影響で、「家の購入=新築購入」という「新築信仰」が消費者間に広く浸透したことも、中古住宅市場が成熟しなかった理由として指摘されています。