低予算で確実に視聴率を稼げる

こうしたワイドショーの形態や安定した視聴率は、現在も変わらない。午前の雄「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)は視聴率10%をたたき出すことも珍しくなく、早朝の時間帯から始まる他の番組も7~9%台を記録する。午後は「情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)をはじめとするワイドショーが、視聴率5~6%台を確実にキープしている。

では、この視聴率にどのくらいの価値があるのだろうか。例えば莫大ばくだいな予算と日程を投じて制作されている大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は視聴率15%前後だ。それとは比較にならないほどの低コストで5~10%の安定した視聴率が得られるのだから、テレビ局にとってはぬれ手であわで、やめられるはずがない。ライブ視聴中心で録画視聴がほとんどないワイドショーは、CMをスキップされないため、スポンサーにとっても効率がよい。

ワイドショー的演出を開拓した「泣きの小金治」

もうかっているなら伝える情報の質を高められそうなものだが、それでもワイドショーが変わろうとしないのには理由がある。

頭がテレビになっている男性
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再び時代を遡さかのぼってみよう。「アフタヌーンショー」は放送2年目に司会者をテコ入れし、落語家の桂小金治を番組の顔に据えた。司会者交代の効果は抜群で、桂小金治は顔を真っ赤にして怒鳴ったり、嗚咽おえつで声が聞き取れないほど泣いたりして、「怒りの小金治、泣きの小金治」の異名を轟かせた。いま後期高齢者になった当時の視聴者は、いつ桂小金治が怒鳴るか、涙を流すかと、固唾かたずを飲んで見守っていたと証言している。

視聴者が求めていたものは情報の内容や質よりも暇つぶしのための喜怒哀楽や驚きだった。「アフタヌーンショー」は正午の枠としては驚異的な最高視聴率20%を記録したが、これは視聴者の感情のたかぶりを表した数字と言っても過言ではない。こうして「アフタヌーンショー」がワイドショーの王座に就くとともに、喜怒哀楽と驚きを過剰に煽る演出もまたワイドショーの王道的手法として確立されたのだった。