誹謗中傷する人にも手を差し伸べる

長女の死は浩次さんの倫理観にも影響を及ぼしたという。ネット上での誹謗中傷に対しても今は俯瞰ふかんして捉えている。

「お姉ちゃんが亡くなった時も『死ね』とか、『早く首をくくれ』と言われた。おそらく若い子だと思うんですね。でも、身内の死を経験してしまうと、こんなつらい言葉は絶対に書けなくなると思うんです。僕も画面越しで3・11の光景を見てても死の実感が湧かなかった。すごく遠い出来事のようにも思えた。でも、いま自分の大切な人が亡くなって、命の尊さに改めて気づかされた。若い子は経験がないから『死ね』とか、『消えろ』とか簡単に使ってしまうんだと思う」

当然ながら誹謗中傷は厳しく取り締まるべきで、浩次さんも決して認めているわけではない。だが、誹謗中傷する人に「若さゆえの過ちではないか」と手を差し伸べる。

日本独特のゆがんだ正義感が引き起こす誹謗中傷

配慮や気遣い、人の胸中を察して同調するバランス感覚が浩次さんにはある。取材陣はそんな彼と会話をして、大半の第一声が「普通なんですね」と驚嘆するのだという。豪快な父親に対して、浩次さんはすごく繊細だ。「普通」に見せるのは、生き抜く上で身につけた防衛本能。社会に迎合するため、自然と培った処世術ではないか。

荒井俊英弁護士(写真=筆者撮影)
荒井俊英弁護士(筆者撮影)

「いじめられないように生きてきたから。どうやったら人からいじめられないようになるんだろうって……。人の目ばかり気にして、この人、本当はこんな風に思ってんじゃないかとか勘ぐってしまう。

人として1回死んでいるんですね。それで感情を失ってしまった。こう淡々と喋っている時も、心の片隅ではどこか諦めもあるんです」

加害者家族を断罪する行為の異質さを、刑事事件に多く取り組む荒井俊英弁護士はこう語る。

「一応司法制度が機能しているはずなのに、一般市民が本来同じ立場にある一般市民(加害者やその関係者)をリンチする現象が見られるのは真の法治国家に成熟していない証でしょう」