菌類は食べるものを学習できる

ヒトの出すゴミが菌類の視点から宝に見えるのは驚くべきことでもないのかもしれない。菌類は地球上で起きた五度にわたる主要な絶滅イベントを生き延びた。各絶滅イベントでは地球上の75~95%の種が絶滅した。菌類の一部はこれらの危難の時期にも栄えた。

恐竜の絶滅と地球上で大規模な森林崩壊が起きた白亜紀-古第三紀の絶滅イベントでは、菌類は分解する枯れた木材が大量にあったことから大繁殖した。放射性栄養菌――放射性粒子が放出するエネルギーを食べる菌類――は、廃墟となったチェルノブイリ発電所で繁栄し、「菌類とヒトの長きにわたる核のプロジェクト」の最新の主役となった。原子爆弾によって広島が破壊されたあと、廃墟に最初に戻ってきた生命はマツタケだったと報告されている。

学習させれば煙草の吸い殻だって食べる

菌類は多様なものを食べるが、どうしてもその必要がなければ分解しようとしない物質がある。マッコイは作業場で、世界中でポイ捨てされる1年で75万トンを超える煙草の吸殻を消化するようにヒラタケ属菌の菌糸体を訓練した。ヒラタケは吸われていない煙草なら時間をかければ分解するが、吸殻は分解プロセスを妨げる有害な残渣ざんさを大量に含んでいる。

タバコの吸い殻
写真=iStock.com/Stefani_Ecknig
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マッコイは段階的に他の食物を減らすことでヒラタケ属菌を煙草の吸殻に慣らしていった。しばらくして、ヒラタケは煙草の吸殻のみを食べることを「学習」した。低速度撮影した映像を見ると、菌糸体がジャムの瓶にいっぱい入っていたクシャクシャでタールだらけの吸殻に着々と挑んでいくのがわかった。たくましいヒラタケは最後には瓶の上まで進んでいた。

じつのところ、それは「記憶」と「学習」の賜物なのだ。菌類はその必要がなければ酵素を出さない。酵素あるいはある一つの代謝経路全体が、菌類のゲノムでは何世代にもわたって休眠していることがある。ヒラタケ属菌の菌糸体が煙草の吸殻を分解するには、未使用の代謝作用を捨て去らねばならないかもしれない。

あるいは、平生は別の目的で使っている酵素を、新たな目的のために使うのかもしれない。菌類の酵素の多くは、リグニンのペルオキシダーゼのように目的が特定されていない。だから、一つの酵素をいろいろな目的に供することができるので、類似の構造を持つ異なる化合物を代謝するのに使える。たまたまだが、多くの有毒な汚染物質――煙草の吸殻に含まれるものもそうだ――は、リグニン分解の副産物に似通っている。その意味において、ヒラタケ属菌の菌糸体にとって煙草の吸殻はありふれた課題なのだ。