キノコは“訓練”することで、何でも食べるようになる。生物学者のマーリン・シェルドレイクさんは「メキシコでは、使用済みのオムツでキノコを育てている。キノコにはゴミを宝の山に変えるチカラがある」という――。

※本稿は、マーリン・シェルドレイク『菌類が世界を救う』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

マッシュルーム
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食欲旺盛な菌類が食べる「人間のゴミ」

2018年秋、私はオレゴン州の片田舎にある農場で隔年開催されるラディカル菌類学会議に参加した。農場の庭は500人以上の菌類オタク、キノコ栽培者、芸術家、新進の愛好家、社会・生態系保護活動家などでごった返していた。大会は、野球帽、よれよれのスニーカー、厚いレンズの眼鏡という格好のヒップホップアーティスト、ピーター・マッコイの基調講演「リベレーション菌類学(Liberation Mycology)」で開会した。

規模を別にしてキノコ栽培をするには、栽培者は旺盛な菌類の食欲を満たすために餌に対する鋭敏な鼻になるよう訓練する必要がある。たいていのキノコを生やす菌類はヒトが出すゴミで生きる。換金作物をゴミで栽培するのは錬金術のようなものだ。菌類は無用なものを有用なものに変えてくれるのだ。ゴミを出す人間、栽培者、そして菌類の全員にとって有益な話だ。多くの産業にとって厄介なものが、キノコ栽培者にとっては宝になる。

農業ではとくに廃棄物が多く出る。パーム油とココヤシ油プランテーションでは、生産した総生物量の95%が廃棄される。砂糖プランテーションでは83%だ。都市部の生活圏でも事情はさして違わない。メキシコシティでは、使用済みのオムツが固体ゴミの5~15重量%を占める。何でも食べるヒラタケ属(Pleurotus)の菌――食用ヒラタケを生やす白色腐朽菌――の菌糸体は使用済みのオムツでぐんぐん育つ。オムツのプラスチック部分を取り除いた場合、ヒラタケ属菌に与えたオムツの重さは2カ月で約85%減る。これに対して、菌類のいない対照群ではたったの5%だ。さらに、育ったヒラタケは健康で、ヒト病原体を含んでいない。

同様のプロジェクトはインドでも進行中である。農業廃棄物でヒラタケ属菌を育てる――廃棄物を酵素作用で燃焼させる――と、燃焼させる生物量が少なくてすむし大気の質も改善する。