ウクライナのNATO参加に強く反発するロシア
昨年10月以降、ウクライナをめぐる国際情勢が緊迫している。「最大級の危機」と報道されているが、いったい何が危機なのだろうか。
NATO(北大西洋条約機構)加盟を目指すウクライナに、プーチン政権は強く反発している。昨年12月以降、ロシアはウクライナへ大規模な軍事圧力を加えており、ウクライナとの国境沿いに11万2000人(今年1月22日現在)のロシア兵を集結させている。
アメリカのメディアは、その数が17万5000人に達した時点でウクライナ侵攻が始まると予想している。ロシア政府は全力で、ウクライナのNATO加盟を武力で阻止したいのである。
ロシアの不穏な動きをにらみ、NATOに強い影響力をもつバイデン大統領は、1月29日、ウクライナと東欧諸国に8500人の兵士を派遣することを決めた。
近年、東欧諸国には6000人のアメリカ兵が常駐しており、総勢1万4500人に増強される。単純に兵士の数で比較すると、NATOは劣勢に回っており、ロシア側は強気の姿勢を崩さない。
その一方で昨年末、バイデン大統領とプーチン大統領がオンライン会談を実施している。今年に入ってからも、北米、欧州、中央アジアの57カ国が加盟するOSCE(欧州安全保障協力機構)の本部があるスイス・ジュネーブを舞台に外交交渉が繰り広げられている。ただ互いに相手に譲歩を迫っており、両国の溝が浮き彫りになるばかりだ。
プーチン大統領の“ある要求”で交渉がこじれた
なぜ、交渉が難航しているのだろうか。当初は、ウクライナのNATO加盟問題が議論されていたが、途中でプーチン政権はポーランドやルーマニア、ブルガリアなどの東欧諸国に配備されているNATO軍がロシアの安全保障を脅かしていると警告。「ヨーロッパの勢力図を1997年以前に戻せ」と要求を強めたのだ。
プーチン氏が言う1997年とは、ロシアがNATOと交わした「基本指針」が採択された年である。その文書には、「ヨーロッパに民主主義と安全を原則に平和を樹立する」と記されている。プーチン氏は「安全と平和」の回復を口実に、東欧諸国からNATO軍を撤退させろというわけである。