「国民作家」司馬遼太郎──。彼の手によって描かれた魅力的な群像。激動期を生き抜いたさまざまな「彼」の物語、「もう一つの日本」の物語から、混迷の現代を生きる我々は何を学ぶべきか。司馬文学研究の第一人者が語る。

司馬さんが合理主義の持ち主を好んだことは、『坂の上の雲』で主人公に据えた秋山好古・真之兄弟、正岡子規という3人の人物を見てもわかります。

秋山好古は陸軍軍人で、日本騎兵の父と呼ばれました。騎兵というと颯爽として格好がいいですが、実は戦場では騎兵隊を使いこなすのは相当難しい。たとえば満州の秋や冬は地面に霜が降りたり凍ったりで、馬で駆けることが困難です。そこで好古は騎兵隊長であるにもかかわらず、躊躇せず兵を馬から降ろして戦った。日露戦争ではこうした合理的判断を随所に見せ、8000の騎兵で当時世界最強といわれたコサック騎兵10万の猛攻に耐え抜きました。