「国民作家」司馬遼太郎──。彼の手によって描かれた魅力的な群像。激動期を生き抜いたさまざまな「彼」の物語、「もう一つの日本」の物語から、混迷の現代を生きる我々は何を学ぶべきか。司馬文学研究の第一人者が語る。

司馬さんは人の心の中にあるロマン主義とリアリズムの両方を描きましたが、どちらかといえば、「現実をあるがままに見よ」という合理的精神を持ったリアリストを好んで書いています。

まず思い浮かぶのは、『竜馬がゆく』の坂本竜馬でしょう。江戸時代の日本は徳川幕府が決めたことを各藩に伝え、各藩の殿さまは家老に伝え、さらに家老は藩士に、という上意下達の幕藩体制と、門閥制度(いまの言葉で世襲制)で支えられていました。これが250年間うまくいっていたのですが、ヨーロッパの国々がアジアに進出して植民地化する時代になると、かえって弊害が目立つようになります。縦割りですから、薩摩藩とイギリスが戦争しても、他の藩はどこも助けにいかない。武士が戦争していても、庶民は関係ない。こうした現状を見て、これでは日本は滅ぶ、縦割り体制を超えて横でつながり、統一した国家をつくらなければいけないと合理的に発想した一人が、坂本竜馬です。

(構成=村上 敬 撮影=市来朋久、宇佐見利明)