オープン翌日に放火され、即営業停止

反米のイスラム体制下、マクドナルドは言うなれば「悪魔のシンボル」。相当な経営リスクがあるのは想像に難くない。

新冨哲男『イラン「反米宗教国家」の素顔』(平凡社新書)
新冨哲男『イラン「反米宗教国家」の素顔』(平凡社新書)

元々、なりわいはナッツ農場経営で、飲食業界で働いたキャリアがあるわけでもなかった。それでも、思い立ったが吉日。習うより慣れよ。我流で準備を重ね、十数年前に看板を掲げた。

関係当局や保守強硬派からの風当たりは推して知るべしだ。革命黎明期、マクドナルドのそっくり店舗はオープン翌日に放火され、営業を停止した。

1990年代、あるハンバーガー店は「M」のマークを広告に用いただけで脅迫電話が殺到し、閉鎖に追い込まれた。最高指導者ハメネイでさえ、ブランドそのものを名指しで指弾したことがあった。

「俺はマクドナルドに首ったけ」

ハッサンはどこまでも突っ張った。「誰に何と言われようと、俺はマクドナルドに首ったけなんだよ」と開き直り、威嚇や恫喝に真っ向から挑んだ。

ペルシャ語で「素晴らしい」を意味するマシュディから取った店名は、行政手続きで登録不受理となったが、看板はマシュドナルドのまま変えなかった。

商標権の侵害ではないかと指摘されても「いい宣伝になるだろうが」と譲らなかった。心意気が届いたのか届いていないのか、マクドナルドから抗議はなかった。一難去ってまた一難の繰り返しだったが、連日約200人が訪れる人気店に育て上げた。2号店もオープンする運びとなった。

羊の脳みそのサンドイッチの味は…

「さあ、食べてみろ。サービスだ」。銀紙にくるまれた出来たてのハンバーガーを、ハッサンがしきりに勧めてきた。なるほど、マクドナルドの単なる猿まねではないようだ。バンズの焼き加減は絶妙で、挽肉の甘味が口いっぱいに広がった。

イランの庶民料理に着想を得た「羊の脳みそのサンドイッチ」は、焼き白子のように濃厚だ。いずれもまた食べてみたいと思わせる、オリジナルの味わいだった。

その場に居合わせた常連客はマクドナルドへの憧れというよりも、ハンバーガーのクオリティーやハッサンの人柄に惚れ込み、店に足を運んでいるようだった。