欧州で存在感を増していた中国が、想定外の逆風にあえいでいる。きっかけは、小国・リトアニアが中国との経済協力関係を解消し、台湾に接近したことだ。筑波大学の東野篤子准教授は「激怒した中国政府はリトアニアに圧力をかけ、苦境に陥れた。だが、この報復行為に近隣諸国が強く反発。これまで良好だった欧州と中国の関係に隙間風が吹き込んでいる」という――。
バルト三国地域の地図
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リトアニアと中国との関係はさほど険悪ではなかった

近年、欧州の小国リトアニアが注目を集めている。同国は中国との関係に見切りを付け、台湾との関係構築を大胆に進めているのだが、これに中国が猛然と反発し、あらゆる手段を用いてリトアニアへの圧力を強めている。

それでも台湾への接近をやめようとしないリトアニアの大胆さと、なりふり構わず同国へのけん制と報復に走る中国という構図に、国際社会の関心が集まっているというわけだ。

なぜこのようなことになったのか、経緯を簡単に振り返っておきたい。もともと、リトアニアと中国との関係はさほど険悪ではなかった。

2012年に中国と中・東欧や西バルカンの16カ国との経済協力枠組みである「16+1」が創設された際には、リトアニアはむしろ中国との関係強化に期待を寄せていたとみられる(なお、同枠組みは2019年にギリシャが参加した際に「17+1」と改称されたが、後述するようにリトアニアの離脱によって「16+1」へと逆戻りすることになる。また、本稿では混乱を防ぐため、時期的には「17+1」とすべきところもすべて「16+1」と記述する)。

中国による「途上国扱い」に不満

発足から数年後、リトアニアだけでなく「16+1」諸国の多くは、同枠組みに不満を抱くようになった。

「16+1」で約束された中国による原発や高速道路の建設などの大型インフラ投資案件には、計画倒れに終わったものが少なくなかった。

実施されても計画が大幅に遅れ、予算が当初予定の何倍にも膨れ上がったものもある。

このため、中国主導のインフラ投資計画に大きな疑問符がつくようになったのである。