共感と好意を覚えさせ口を滑らせる

とうとう、講演当日を迎えた。会場は満席。聴衆はみな熱心にあなたの話に聞きいっている。あなたが講演を終えると、ひとりの男性が近づいてきて、実に興味深い話をありがとうございました、と声をかけてきた。

先生のご研究は革新的で、すっかり夢中になりました、実は私の仕事にも関係がありまして。そう明かすと、彼はあれこれ質問をしてきた。そうした質問に答えるため、あなたはかなり専門的でデリケートな部分まで説明する。

こうして嬉々として説明しているうちに、つい機密事項の領域すれすれのところにまで踏み込んでしまう。

無事に講演を終えたあなたは、アメリカに帰国すべく、空港に向かう。搭乗を待っていると、通訳からまた誘いがある。

モダンな空港の廊下
写真=iStock.com/Nikada
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講演が大成功をおさめたので、中国政府は来年もあなたを講演に招待させていただきたいと考えております、今回の会場は規模が小さく満席になってしまったので、来年はもっと広いホールで講演をお願いしたいのですが、と。

さらに通訳はこう言い添えた。ああ、それに来年はぜひ奥さまと一緒にお越しになってください、もちろん、すべての費用はこちらで負担いたします、と。

それと知らずに「機密情報」を話させた手口

私はFBIの防諜活動の一環として、外国から帰国したアメリカの科学者たちから報告を聞くよう命じられたことがある。機密情報を得ようとする外国の諜報員に接近されていないかどうか、確認するためだ。

そして大勢の科学者から話を聞いたところ、前述のような体験をした例が多いことがわかった。

外国側は非の打ちどころのないもてなしでもって歓待してくれたし、機密情報についてはまったく尋ねてこなかったと、科学者たちは口を揃えた。よって裏切り行為はなかった、と。

だが、私にはひとつ引っかかる点があった。科学者たちが一様に「通訳とは共通点がたくさんあった」と述べていたことだ。

両国の文化が大きく異なることを考えれば、妙な話だった。そして、親密な関係を早急に築くには、「共通点」をつくるのがもっとも手っ取り早いのだ(この「共通点」のテクニックについては『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』第4章で詳述する)。

そこで私は〈人に好かれる公式〉を利用し、科学者の中国滞在中の様子を分析することにした。間違いなく「近接」は存在した。

一方「頻度」は低かった。科学者は年に一度しか中国を訪問しないからだ。そのため親密な関係を築きたいのであれば、「持続期間」を長くして、「頻度」の低さを補わなければならない。案の定、「持続期間」は長かった。同じ通訳が、毎朝、科学者を迎えにいき、1日中同行したうえ、夜も一緒に過ごしていたのだから。