「電波オークション」の導入は、これまでもたびたび俎上に上ってきたが、総務省にとって「比較審査方式」による電波の割り当ては通信・放送業界を牛耳る力の源泉となってきただけに、影響力を削がれるような「オークション方式」には一貫して消極的だった。
通信業界も、競争入札になれば新たに電波を取得するための多額のコストが発生するため、おしなべて慎重だった。利用者の間でも、料金値上げにつながりかねない懸念から支持する声は小さかった。
ところが近年、欧米を中心に「オークション方式」を採用するケースが相次ぎ、既に50超の国が何らかの形で取り入れるようになってきた。経済開発協力機構(OECD)の加盟国で導入していないのは日本だけになってしまったという。
こうした海外の状況を踏まえて、政府の規制改革推進会議が「オークション方式」の導入を強く迫った。
総務省は重い腰を上げて有識者会議を設置
このため、総務省は重い腰を上げて、10月末に有識者会議「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を立ち上げ、電波資源がひっ迫する中で携帯電話の第5世代通信規格(5G)の効率的な運用方法を探ることになり、中心的議題として「オークション方式」を取り上げることになった。
総務省としても、海外事情を鑑みればかたくなに導入を拒否し続けることは得策ではないとの判断に傾いたようで、有識者会議の設置そのものが「オークション方式」の導入に向けて舵を切ったことの証左ともいえる。
もっとも、一口に「オークション方式」といっても、先行する各国での取り組みもさまざまで、国情に合わせて、あまたの試行錯誤を経て現在に至っているのが実情だ。
純粋な入札方式から限りなく現行の「比較審査方式」に近い形まで、さまざまな仕組みが考えられるため、総務省も有識者会議の議論を注視するという、やや半身の構えでスタートしたようだ。
NTTドコモが導入賛成に転じ、事態は急転
ところが、有識者会議が「オークション方式」の議論を始めてまもなく、事態は急転した。
通信大手各社のヒアリングを実施したところ、最大手のNTTドコモが、従来の慎重姿勢から一転して導入に賛成の立場を鮮明にしたのだ。
井伊基之社長は、5G時代はIoT機器などによる携帯電話以外の電波利用が増え通信環境が激変するとの見通しを示し、「オークションによる周波数の割り当ては透明公平で、グローバルスタンダードになっている。価格の透明性や、将来の需要の変化への柔軟性をもった『オークション方式』を、今後の割り当ての基本的な方式として検討すべきだ」と明言。懸念される落札価格の高騰を防ぐ方策として、獲得周波数に上限を設けるなど制度設計の工夫を上げた。