「うつ病キャンペーン」の立役者だった日本自殺予防学会理事長

そして、何よりも読者が決して知らない情報があります。張医師は学会代表という公益の肩書きを持ちながら、利権の代弁者でもあるという事実です。張医師は、「GoTo精神科キャンペーン」の前身とも言うべき、「うつ病キャンペーン」の立役者の一人でした。彼は、軽症うつ病にも抗うつ薬を積極的に使っていくべきだと一貫して主張してきました。

画期的な新薬と喧伝された新抗うつ薬SSRIの弊害や情報隠蔽いんぺいが次々暴かれ、軽症うつ病に対して薬を使うべきではないという潮流が国際的に広がる中でも、張医師は論文中で「軽症うつ病にも筆者は抗うつ薬を積極的に処方している」(日本精神神経学会『精神神経学雑誌』2012年第114巻第5号「精神医療と自殺対策」p557)と述べています。直近でも、抗うつ薬SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)「サインバルタ」を製造販売する日本イーライリリー社から4年で800万円弱の金額を受け取っています。

2016年度 267万2880円
2017年度 245万140円
2018年度 122万5070円
2019年度 145万3999円
合計 780万2089円
[参考「日本イーライリリー株式会社 企業活動と医療機関等への資金提供および患者団体への資金提供・支援に関する情報」]

あまりにも情報が偏っている報道や施策

医師が、利害関係者である製薬会社から金を受け取ること自体は別に犯罪でもありません。しかし、その情報が隠されてしまう場合に問題となります。なぜならば、その医師の主張や研究、論文を評価する際に、当然そのような利害関係を考慮する必要があるからです。製薬会社にとって利益に直結するのは、患者を増やすこと、処方対象を広げることです。張医師の主張は見事にその役割を果たしてくれています。

私は張医師の話は聞くな、報道を信じるな、と言いたいのではありません。その主張に同意するのも信じるのも個人の自由です。しかし、情報の受け手である一般市民は、疑問を持って自分から調べたりしない限り、与えられた情報のみで判断しなければなりません。そこに誤った情報、偏った情報、隠された情報があれば、適切に判断することが困難となります。

私が「とにかく専門家に早く相談を」という類の報道や施策に疑問を呈するのは、あまりにも情報が偏り、判断するために必要な情報や視点が欠けているからです。先ほど挙げた報道はあくまでも一例にすぎません。キャンペーン的な報道によって、ただでさえ不安になっている人々が、治療しないとさらに大変な目に遭うぞと脅かされてもっと不安にさせられています。