民間が移送手段を持つのはハードルが高い

そこで重要となってくるのが感染者の移送手段だ。検査に到達できない人と同様、移動手段を持たない人をいかに自宅放置することなく医療機関に移送するかという重要な問題を、これまで行政は真面目に考えてきたと言えるだろうか。

個々の医療機関で独自の対応をすべく奮闘したところもあっただろう。実際私の勤務先でも、移動手段を持たない患者さんをやむを得ず自宅から送迎したケースもゼロではない。しかし当然ながら特殊車両などはないから、ドライバーが感染の危険に曝されうる。とても日常的に行えることではない。あくまでも緊急的な臨時対応だ。

行政は現場丸投げ、各医療機関で勝手に対応してほしいとのスタンスなのだろうか。そもそも送迎するにしても、患者さんから移送費用を実費請求することはできない。有償で送迎するなら旅客自動車運送事業としての許可を得る必要があるだろうし、ドライバーも第二種運転免許保持者でなければならないだろう。

感染対策を施した特殊車両を入手したり、ドライバーの雇用、ガソリン代などが持ち出しとなってしまう現状では、民間医療機関が無償で送迎することは極めてハードルが高い。医療機関としては動線分離も可能で、CT検査も抗体カクテル治療も可能なのに、外来受診する足のない患者さんに対応できないのは非常に歯がゆい。

行政は積極的に移送システムの構築を

一部のタクシー会社では、前後座席間に隔壁を作り飛沫循環抑制仕様に改造した車両を軽症者移送のために用いているとの報道も目にした。まだまだ全国各地で日常的に運用されているとは決して言えない状況だが、積極的に活用する手もある。

そもそも移送にかかる費用を患者さんが自己負担しなければならないというのも理不尽だ。金銭的に困窮している人が医療に到達することができなくなるからだ。やはり行政が積極的に「無償による発熱者・感染者移送システム」の構築と運用に即刻着手すべきであろう。

これだけでも「自宅放置」とされる人が減り、より多くの命が手遅れにならず救われることになる。外来で治療できる人については地域の診療可能な診療所が積極的に治療し、それによって手遅れになってから運ばれる人を多少なりとも減らすことができれば、病床の逼迫に一定の歯止めをかけることも可能になろう。

「自宅療養者には往診」という硬直かつ非現実的な思考に拘泥し続け、「移送」についてなぜ行政が積極的に手を打とうとしないのか、現場を見てきた者として私にはまったく理解ができない。

実際の現場で患者さんの対応をしていると、このように行政の不作為が次から次に見えてくる。今こそ政府はこれら「本来なすべきこと」を万全に講じておく必要があるし、このような本質的に重要な対策については「カネに糸目」をつけるべきではない。どんどん財政出動すべきだ。

こんな当然のことは今更言うまでもないのだが、あえて言う。なぜなら私には岸田政権が菅政権と同じ過ちを再び繰り返すのを、ただただ待っているようにしか見えないからだ。

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