新型コロナウイルスの「第6波」に備え、政府は自宅療養者への対応を強化するため訪問看護や往診体制を整備している。医師の木村知さんは「医師の往診は効率が悪すぎる。原則として、自宅療養者は外来診療で対応するべきだが、そのための移送手段がない。結果として現場の負担ばかりが増えてしまう」という――。
病気の自宅
写真=iStock.com/Milos Dimic
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第5波では自宅で亡くなったケースがたびたびあった

オミクロン株の上陸で、これまで落ち着いていたわが国の感染状況も予断を許さない局面となりつつある。第5波の反省も総括もあやふやなままに新規感染者数がなぜか減少、コロナ疲れとクリスマスや忘年会という年末の華やいだ雰囲気も手伝って、すっかり気を緩めていた多くの人は、今夏の緊張感を再び呼び起こさねばならないこの状況に辟易していることだろう。私も同じだ。しかし現実から目を背けていても仕方ない。ここは冷静に対策を講じ、来る第6波の準備を万全にしておく必要がある。

私は診療所で在宅医療を中心に行っている医師である。コロナ上陸後は発熱外来も担当し、実際数々の肺炎患者さんの診療にあたってきた。第5波では病床逼迫により「自宅療養者」と呼ばれたいわゆる「入院困難者」「自宅放置者」が多数発生したことは周知のとおりだ。これらの人はピーク時には全国で13万人に及んだ。テレビでは、入院適応ながら救急車を呼んでも搬送先の医療機関が見つからず、自宅で亡くなってしまったケースがたびたび取り上げられた。

この「自宅療養」という失策については、在宅医の意見として、プレジデントオンラインの記事「『コロナ自宅療養は感染者を増やすだけの愚策』在宅医療のプロが憤りを隠さないワケ」(2021年8月17日配信)で書いた。本稿では第5波でのこの失策の要因でありながら、これまで誰も指摘してこなかった重要なポイントを提示したい。これは「自宅療養者」を手遅れにしないために極めて大事なことだ。

まず自分ごととして思考実験していただきたい。朝起床時に突然発熱していたとしたら、あなたはどうするだろうか。

かかりつけ医も自家用車もない人はどうすればいいのか

私の場合を例にシミュレーションしてみよう。当然ながら出勤はできない。このご時世だ。職場に発熱したと報告したら、まずは「検査をして来い」と言われるだろう。問題はどこで検査してもらえるのかということだ。私は医師だから勤務先での検査が可能だ。しかし職場に行くためには電車を乗り継いで1時間以上かかる。発熱を隠して公共交通機関を使うわけにもいかない。そもそも熱が出ていたら、だるくて電車になど乗ってはいられない。

そこで自治体のホームページを見ると「発熱等の症状が出たときはまず事前にかかりつけ医にご相談を」とある。幸か不幸か特に持病のない私は近所にかかりつけ医を持っていない。そのような人のためには「受診相談センター」なるものが各自治体には用意されているようだ。ここに連絡すると検査可能な医療機関を案内してくれるという。あとはその案内にしたがって受診すれば良いだけだ。

しかし、そこではたと気づく。検査可能医療機関までどうやって行けば良いのか。私は自家用車を持っていない。先ほど相談したときに公共交通機関を使わないようにと言われた。つまりタクシーも使えない。徒歩だと30分以上は優にかかる……。

いかがだろうか。自家用車を保有している方であれば、このような心配もないだろう。今はドライブスルー検査場もあるではないか、とも思うだろう。だが移動手段を持っていない人にとってみれば、いくら検査態勢が整備されても、いざとなった時に検査に到達することが容易ではないのだ。いや、仮に自家用車を有していても発熱して具合の悪い状況で運転するのは非常に危険だ。事実、新型コロナ感染者が自ら運転して事故を起こし死亡したケースも報じられた。