データが不十分だったことで「勧奨中止」の事態を招いた

厚労省のアンケート調査によれば、ワクチン接種の対象となる女の子を持つ母親の40%が「(厚労省が勧奨を止めたために)自分では判断ができない」と答えていた。

勧奨が再開されれば、接種率は上昇するだろう。だが、依然として反対の声は根強い。接種後の症状を訴える女性らが国と製薬会社に損害賠償を求めた裁判は係争中で、原告側は「症状が改善せず、病院でたらい回しにされ、ときには詐病扱いもされた」と被害を訴えてきた。弁護団も「厚労省が用意した都合のいいデータばかりで作られた不当な判断である。問題となっている多様な症状が同時に起こることが十分に議論されていない」と反発している。

こうした接種に反対する声がワクチンへの不信感を増大させ、雪崩が崩れ落ちるように接種率を引き下げたのだろう。

厚生労働省の専門部会でHPVワクチン接種の勧奨再開が決定したことを受け、記者会見する損害賠償訴訟の原告ら=2021年11月12日午後、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
厚生労働省の専門部会でHPVワクチン接種の勧奨再開が決定したことを受け、記者会見する損害賠償訴訟の原告ら=2021年11月12日午後、東京都千代田区

厚労省が勧奨の再開を決めた背景には、子宮頸がんワクチンの安全性と有効性を示すデータが多く集まったことが挙げられる。たとえば、昨年公表されたスウェーデンの研究論文では、10歳~30歳のワクチンの接種者は接種していない女性に比べて子宮頸がん発症のリスクが60%以上も低く、これを17歳未満で見ると、80%以上も発症リスクを下げるという効果が確認できた。

問題のワクチン接種後の症状についても研究が進み、「接種と症状に明確な因果関係を見ることはできない」との研究論文も出ている。裏を返せば、接種後の症状についてのデータが不十分ななかで、接種のアクセルを強く踏み込んで急発進した結果、厚労省は一連の症状の訴えに応じきれず、積極的勧奨の中止に追い込まれたといえる。これは厚労省の失態だろう。

思春期の女性を対象とする定期接種のワクチンは初めてだった

しかも定期接種の対象者は、小学6年~高校1年生の思春期の女性だ。体の成長が急速に進み、健康面でバランスを崩しやすい。体と心が大人になる時期の女性を対象とする定期接種のワクチンは初めてで、支援体制は整ってなかった。

今後は勧奨再開に向け、厚労省が正確で的確な情報提供を行い、接種を受ける若い女性の不安を解消し、信頼されるワクチン行政を推進してほしい。それが国民の命と健康を預かる厚労省の責務である。

一般的にワクチンは接種した人だけでなく、社会全体を守ることが可能だ。その病原体から自分自身を守ると同時に、致命傷を負う健康弱者への感染を防ぐことにつながるからだ。その意味でワクチンの接種は社会防衛なのである。

しかし、ワクチンは人間の体にとって異物である。それゆえどうしても大小の副反応は発生する。よく知られた副反応が大きな問題になったワクチンとしては、はしかと風疹、おたふくかぜのワクチンをひとつにまとめた3種混合のMMRワクチンがある。この3種のうち、おたふくかぜのワクチンから無菌性髄膜炎の副反応が相次ぎ、導入の4年後にMMRワクチンは接種を中止し、2種混合に切り替わった。集団訴訟も起き、1994年の予防接種法の改正にもつながった。ワクチンの接種は効果と副反応を天秤にかけ、メリットがデメリットを上回るようなら投与すべきである。