ツアー参加者の木下良智(58歳)は「定年後は田舎暮らしをしたい」と話す。そのときのために、田舎探しをしているのだ。妻のすず子(58歳)によれば「若い頃は、牛を飼いたいと言っていた」ので、五十川の話には興味津々である。

チーズ工房を営む五十川敬記さん。

「どのくらいで、生活できるの?」

「牛が3頭もいれば、やっていけます。放牧すればエサ代もかからないし」

「投資は、大変ですか?」

「この辺にあるものばかり使うようにしているので、大丈夫ですよ」

なにやら、明日にでも移住してくるような木下の質問ぶりだった。

もう一組の夫婦は、アメリカ人のトーマス・クランシー(52歳)と妻の永野環(38歳)だ。クランシーは大学で英語を教え、永野は翻訳の仕事をしている。

「週末だけでも、空気のいいところで暮らしたい。翻訳はパソコンがあれば、どこでもできるし」と永野は話していた。

「牛を飼っていると家を離れられないでしょ。旅行したいとか思いませんか?」と聞く永野に、五十川はこう答えた。

「私が行けなくとも、ここにいろんな人に来てもらうことで、新しい出会いを得られますから。若い人にも来てほしい」

自宅兼工房の前で行われた説明会。

1年前にツアーに参加して、定住を決めた大花慶子(41歳)は、それまで大学の職員をしていた。「40歳になったとき、生き方を変えたいと思って」、田舎暮らしを決断する。

今では、塾講師やイラストレーターをしながら、地元の自然食の店や農的生活を「ハナリンの房総ロハスライフ」としてネットで発信している。地元と都会を結びつける役割に、田舎暮らしの新しい喜びを見出したようだ。

週末農業、二地域居住、田舎定住と、徐々にステップアップしていけば、筆者もスムーズに田舎暮らしに入れたかもしれない……反省である。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部=撮影)