「音の立体化」と「音の定位」とはなにか?

一口に「音の立体化」と「音の定位」と言われても、研究者以外には何を意味するのか分からないだろう。

スピーカーやヘッドホンは左右2つのユニットから異なる音を出し、リスナーはそれによって音源がどの位置にあるのかを聞き分けることができる。

ただし従来のステレオシステムでは音源が左右どのあたりにあるかは分かっても、縦方向(上下)や前後方向の位置までは聞き取れない。

原理的には3点測量のように2つではなく3つのポイントで捉えないと、立体的に「そこに音源がある」という判断(これを「定位」という)はできないのだ。

しかし実際には人間は2つの耳だけを使って、音源が前にあるか後ろにあるかを確実に知ることができるし、音源の上下も明確に認識することができる。

それには耳の非対称な形状が関わっている。

耳たぶ、外耳孔、鼓膜などを使って位置を把握

外部から来た音はまず耳に当たり、そこで反射して耳の穴(外耳孔)に入り、鼓膜に達する。

耳の形が非対称であることで、前から来た音と後ろから来た音、上からきた音と下からきた音で反射の仕方が異なり、音が変わる。例えば後ろから来た音は耳たぶによって遮られるが、前から来た音にはそれがないので、はっきり判別することができる。

ある音源から音が出ているとき、その音をどう変化させれば、人間は「この音はこの方向から来ている」と判定するのか。これについてはすでに定式があり、「頭部伝達関数」と呼ばれている。

この関数に従って音を変化させることで、ヘッドホンをつけた被験者に対して前後左右上下、こちらが意図した通りに音源の位置を感じさせることができる。

これが「音の立体化」技術である。

体の動く方向で音の出方を変える高度なもの

「音の定位化」はこの「音の立体化」技術を発展させたものだ。

定位化では、聞き手がどちらの方向を向いているかに応じて音の出方を変える。

アップルのAirPodsを装着した右耳
※写真はイメージです(写真=iStock.com/CasPhotography)

現実世界では、左側から車の音がしたので顔をそちらに向けると、今度は音が正面から聞こえてくることになる。これをヘッドセットで擬似的に再現してやるのだ。

自分の動作により音の出方が変わることで、人はまるで自分がその場にいるようなリアルさを感じることができる。

ただし音の定位化を行うためには、リスナーの顔や身体の向きをリアルタイムに検知し、それを音の出方に反映させなければならない。これはかなり高度な技術である。

それを可能にしたのが、物体の向きや移動を正確にトラッキング(追跡)できる「9軸モーションセンサー(9軸センサー)」だった。これをヘッドセットに内蔵させれば、装着した人の動きをリアルタイムで捕捉できる。