旧ソ連の最高指導者、スターリンは29年間にわたって独裁者であり続けた。作家の佐藤優さんは「彼はどうやって権力を維持したのか。その答えは最初の著作『レーニン主義の基礎』を読み解くと見えてくる」という——。
※本稿は、佐藤優『危ない読書 教養の幅を広げる「悪書」のすすめ』(SB新書)の一部を再編集したものです。
29年間、スターリンが独裁者であり続けたワケ
29年間にわたってソビエト連邦の最高指導者を務めたヨセフ・スターリンが1923年に発表した『レーニン主義の基礎』は、かつて世界の共産主義運動に多大な影響を与えた、世界的なベストセラーだ。
70年前の日本人もみんな熱中して読み、当時のトレンドは「プロレタリアート独裁の国をつくりたい」「自分も独裁の国のなかで生きたい」と語り合うことだった。
しかし現在はほとんどその存在は忘れられ、本も古書でしか手に入らない。戦後に大月書店から出た文庫本か『スターリン全集』に収められているものである。
この作品を読み解くうえでは、マルクス、レーニン、スターリンの三人の関係についてあらかじめ知っておく必要があるので、一度整理する。
まず、マルクスとは、1848年に『共産党宣言』『資本論』などを記した、共産主義の祖である。彼の歴史観・政治観・経済学的理論などをマルクス主義と呼ぶ。
次に、レーニンとは、1917年にロシアで「十月革命」を率いて成功させ、ソ連を樹立させた革命家である。マルクス主義を継承した彼の政治思想を、レーニン主義と呼ぶ。
スターリンは、1923年にレーニンが死去した後に、ソ連の最高指導者としての地位を勝ち取った政治家である。また、彼の政治思想をスターリン主義と呼ぶ。
そして、スターリンが記した『レーニン主義の基礎』は、レーニン後のソ連で彼が影響力を増すべく出版した本だと見ることができる。