「ブロックされない程度」の接触頻度を意識

いわば、アナログな手法で「電話が鳴るのを待つ」のではなく、デジタルの力で消費者にダイレクトにアプローチして「需要喚起を図る」ことにより、消費者といつでもつながれる状態を構築したのである。

「LINEでもメルマガでも、最悪読んでくれなくてもいいんです。ブロックされたり迷惑フォルダに振り分けられないよう、接触頻度は意識しながら情報のご案内をしています。基本的には週1で送るようにしていて、キャンペーンや誕生日も考慮しながら、お客様との接点を生み出せるよう心がけています」(渋谷さん)

メールマガジンによる配信は1回につき数千万円単位、そしてLINE公式アカウント経由では月間数億円単位の売り上げに貢献しているという。

「銀のさら」LINE公式アカウント。友だち登録数は570万人を超える
画像提供=ライドオンエクスプレス
「銀のさら」LINE公式アカウント。友だち登録数は570万人を超える

自社チャネルだからこそ、購買データを活用できる

他方、コロナ禍でデリバリー需要が高まり、多くの飲食店が宅配ビジネスに参入したことで市場の競争は激化している。

そんななか、銀のさらではどのような差別化を図っているのか。

渋谷さんは「こういう状況だからこそ、凡事徹底の精神が大事になってくる」とし、次のように話す。

「弊社の“凡事徹底”の精神とは、メニューチラシの写真通りの商品を作成し、お約束した時間の前後15分以内に届けることです。『当たり前のことを徹底的にやり、お客様との約束を守る』ことが何より大事であり、原点を忘れずに取り組むことで、銀のさらの強みが生きてくると考えています。

また、自社チャネルを持っていることも優位性につながっています。デジタルによる販促活動では購買データが蓄積されるので、ターゲットに合わせたアプローチや施策の効果測定など、数字に基づいたアクションを行うことができるからです」

DXを社内で推進する旗振り役となった渋谷さんだが、2010年当初は社員の理解が得られず、苦労したという
筆者撮影
DXを社内で推進する旗振り役となった渋谷さんだが、2010年当初は社員の理解が得られず、苦労したという

また、他社が異業種や人気アニメなどのIPコラボを実施し、認知度向上に努めているなか、「費用対効果が悪くなるものには投資しない」という姿勢を貫いている。

「IPタイトルとのコラボも過去に試したものの、注文のきっかけには結びつかなかったので、基本的にはコラボ企画の施策は考えていません。そこにお金をかけるよりも、サービスや商品に投資した方がお客様の満足度が高まると考えています。加えて、基本的には商品の値引きをしない戦略をとっています。というのも、値段を下げて購買数が一時的に伸びても結局リピートしないですし、値引き期間内とそうでない期間とで差別感が生まれるのもよくないと思っているからです」