埋めがたい与・野党の得票率差
細かい注釈をいろいろ付けはしましたが、グループ分けと時間の前後による先の表のような比較はデータさえあればそれほど難しいものではありません。グラフの作成も大して手間ではありません。科学的にはもっと詰めなければならないところはありますが、表計算ソフトさえ使えるのなら、数を主観的に「評価」して大味な議論を誘導する必要はないのです。
よく、他のメディアと比較した際の新聞の長所として、裏取りやデスク等によるチェックなどを背景とした情報の信頼性が挙げられることがあります。しかし、政治・選挙報道における数字の用い方については、いい加減で時に扇動的と感じさせることがあります(ネット・メディアがマシとは言っていません)。年齢や立場に関係なく、数字と分析に関するリテラシーを持った記者やチェック担当者が必要に思いますが、どうでしょうか。
さて、ここで確認した野党共闘の効果を前提とすれば、立憲民主党の今後についてどのように議論できるでしょうか。簡易的なシミュレーションから考えてみましょう。
図表3は、今回の衆院選の選挙区について、維新を除く野党の候補と与党候補との得票率差の値を左から高い順に並べ、その値を折れ線で繋いだものです。縦軸が0ポイントのところに水平に引いたラインより上が野党の与党に勝利を示します。
今回の衆院選で野党候補が与党候補を上回った選挙区の数は全体の4分の1に過ぎません。仮に5ポイント以内の小差の接戦区を全て逆転できたとしても、合わせて37%の選挙区でしか勝利できません。これを過半数に持っていくためには、13ポイントの得票率差を埋める必要があります。
政権交代には程遠い結果だった
もし共産党が全選挙区で候補を擁立したら、この結果はどうなるでしょうか。共産党が候補を擁立しなかった選挙区の野党候補から8ポイント減じて選挙区を並べ直すと、野党候補が与党候補を上回る選挙区は12%しかないことがわかります。共闘効果8ポイントが正しいとすれば、共産党との共闘なしに小選挙区で勝てた選挙区は半分もない試算になるわけです。
また、過半数の位置での与党との差は17ポイントになります。共産党が候補を撤退させなかった場合、このような巨大な差を挽回しなければ政権交代が見えてこないことになります。
このシミュレーションは維新の会を考慮に入れないなど簡便なものですが、与党に水をあけられている野党の現状を理解するには十分でしょう。もし共産党が候補を撤退させなければ野党は本当の意味で大敗したはずです。
一方、接戦区が増えたと言っても政権交代には程遠い結果であったことも明らかです。野党共闘の効果は大きいですが、それでも4分の1の小選挙区でしか勝利できないのは、ひとえに野党側の力不足、支持不足のためと言えます。