商業捕鯨が始まる以前、シロナガスクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラなどの巨大なヒゲクジラ類は、全大陸の森林生態系と同等の炭素を環境から除去していたことが科学者によって明らかにされた。ヒゲクジラ類の個体数を商業捕鯨以前のレベルまで回復させることは、気候変動対策にもつながるはずだと研究チームは述べている。
米スタンフォード大学の海洋生態学者マシュー・サボカは、これらの巨大な哺乳類が実際にどれくらいの量を摂食しているかを調べた論文の筆頭著者だ。これまで、ヒゲクジラ類の摂食量の推定は、わずか数回の測定に基づいて出されたものがほとんどだった。
そこで研究チームは、大西洋や太平洋、南極海に生息する体長約9~30メートルのクジラ321頭にタグを付け、そのデータを調べることにした。
このタグはクジラの動きを追跡できるもので、それぞれのクジラがどれくらいの頻度で摂食しているかを特定できた。また、研究チームはドローンで撮影した写真から、クジラの体長を計算し、一口ごとにろ過している水の量を見積もった。さらに、研究者たちは餌場を訪れ、一度の食事で摂取されるオキアミなどの餌の密度を確認した。
『ネイチャー』誌に発表された研究結果は、驚きに満ちていた。巨大なヒゲクジラ類は、これまで推定されていた量の3倍も食べていたことが明らかになったのだ。北太平洋に生息するシロナガスクジラの成体は、夏の摂餌期には1日当たり16トンものオキアミを食べるというのだ。ホッキョククジラも、1日当たり6トンの動物プランクトンを食べていた。
研究に参加した米国立自然史博物館のニコラス・ピエンソンは本誌に対し、「想像を絶する摂食量だ」と語った。「世界の年間漁獲量の約2倍、南極海に現存するオキアミの2倍という量だ。私たちの研究結果は、最も大きなクジラたちについて推測されていながら、いまだ入念に定量化されていなかった事実も明らかにした。彼らが生態系エンジニアとして果たしている役割の大きさだ」
クジラがどれくらい食べているかを知ることは、クジラが地球に存在することが、炭素除去や海の健康にどれくらい貢献するかを理解する鍵となる。
海中に吸収される炭素が減る
20世紀の商業捕鯨では、最大300万頭のクジラが命を奪われた。巨大なクジラがこれほど大量に海から排除されたことは、生態系に多大な影響をもたらした。クジラの排せつ物は、海の食物連鎖にとって重要な栄養源だった。
(オキアミに由来する)鉄などの重要な栄養素が海面に供給されることで、植物プランクトンのブルームが発生。これが、スポンジのように炭素を吸収してくれる。クジラが減ると、ブルームも減り、除去される炭素の量も減るという訳だ。