苦しいときは、老後の年金より現金

iDeCoは節税になる半面、それを上回る大きなデメリットもあります。

それは、積み立てたお金が60歳になるまで引き出せないこと。自分のお金であるにもかかわらず、必要なときに貯金のように下ろすことができません。

そもそも一般的なサラリーマンで、節税が必要なほど税金を払っている人はそう多くはありません。しかも、これからのサラリーマンは転職するかもしれないし、リストラされるかもしれません。今の不安定な状況では、サラリーマンも安泰ではない。会社を辞めた時にお金に困っても、積み立てたiDeCoは、60歳まで引き出せないのです。そのため、借金をするという、本末転倒なことになるかもしれません。

iDeCoは転職しても続けられますが、勤める会社の形態によって積立限度額が違ってきますし、会社にも報告して手続きをするという雑多な業務が発生します。また、今までの積立額を60歳まで維持できるかどうかはわかりません。

自営業者の場合は、仕事をしていく途中で資金繰りに困るリスクは、さらに高い。

コロナ禍で泣いている飲食店や事業者がどれほど多いことか……。そんなとき、「そういえば、iDeCoに500万円ある」と思っても引き出せないので、高い利息を支払って銀行や信金から資金を借りなくてはならない事態が発生するかもしれません。

苦しいときは、老後の年金より、今すぐ欲しい現金のほうが、ずっと役に立ちます。

なお、自営業者には、仕事を辞めたときの退職金代わりとして、まとまったお金を手にするために積み立てる小規模企業共済制度(年84万円まで所得控除)があります。

小規模企業共済は、iDeCoとおなじで節税になるだけでなく、事業が苦しくて資金が必要になったら、預けているお金を担保に低利融資の制度もあります。また、ペナルティはありますが、途中で解約することも可能です。

よほど儲かっている自営業者なら、小規模企業共済とiDeCoの両方に加入して節税するのはよいですが、そうでなければ小規模企業共済を優先したほうが、自営業者には使い勝手がよいでしょう。

公務員の年金に4階部分ができた

公務員には、iDeCoはとても優遇された金融商品です。

そもそも、会社員に401kが導入された際に公務員に導入されなかったのは、税金から給料をもらっている公務員が、民間人よりも大きい節税メリットを享受するのはおかしいという議論があったからです。

また、公務員にはすでに「年金払い退職給付」という、民間の企業年金にあたる年金があるので、ここにさらに上乗せして、企業年金にあたるものが公務員だけ2つになるというのも不公平だという議論もありました。

公務員の年金は、2015年10月から厚生年金と一元化されています。

この裏事情には年金をもらう公務員の数が急増しており、このままだと現役の公務員だけでは支えきれなくなる可能性が高くなったということがあります。

今のうちに安定している厚生年金と一緒にして、破綻しないようにするということでしょう。

そうであれば、今までの積立金を持参金として厚生年金に差し出して、厚生年金同様に2階建てにするべきですが、そうはならず、積立金の一部で独自の「年金払い退職給付」という新しい年金を作り、公務員の年金だけは全員3階建てになっています。

ここに、新たにiDeCoという4階部分を乗せて節税もできるようになりました。給料の高い公務員は、iDeCoでの節税効果も高いです。民間の平均給与は433万円(令和2年国税庁調べ)ですが、公務員の給料は40代で650万円から800万円といわれていますから、節税効果は民間とは比べ物になりません。