「現実」と「理想」のギャップを体で理解してもらう

こういうケースには、「現実を前もって知ってもらう」方法が一番いいと私は思います。

無印良品では、新卒採用の内定者には、店舗でアルバイトをしてもらいます。もちろん、仕事ですので時給は払います。

アルバイトをひと月ふた月やっていると、だいたい仕事の内容がわかってきます。

昔から無印良品のファンで店に通っていたとしても、実際に自分が店に立つと、抱いていたイメージと現実はまったく違います。立ち仕事はそれだけでつらいですし、届いた商品を倉庫に運んだり、倉庫から店頭に運んだりの力仕事もそれなりにあります。商品数が多い店では、商品をすべて覚えるのは大変でしょう。もしかしたらお客様から理不尽に感じるようなクレームを言われることもあるかもしれません。

そういった体験を通して、現実がじわじわと身に染みていきます。

レジに立つ店員
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです

さらに、店舗に配属されている社員から話も聞けるので、社内の様子が段々わかっていきます。そうやって事前に現場を体験してもらい、会社というものの現実を知ってもらったほうが、学生も覚悟を固めることができます。なかには、この段階で辞退する学生もいますが、入社前に自分の理想と合わないとわかるほうが本人にとっても幸せでしょう。

小さな仕事こそ目的を教えるべき

晴れて新入社員になってからは組織の一員として、会社の持っている哲学や、コンセプト、価値観といったものをしっかり理解してもらわないといけません。無印良品では、そのためにMUJIGRAM(各店舗用のマニュアル)や業務基準書(本部の業務用マニュアル)といったマニュアルがあります。

たとえば、会社に入ったばかりのころに、掃除やお茶の用意、コピー用紙のチェックなどの仕事を任された人もいるでしょう。業務とは直接関係ない雑務ですから、「面倒だな」と思ったかもしれません。

新入社員には、「なぜその作業が必要なのか」「どこにどう役立っているのか」という目的や理由を考えさせ、教えてあげなければなりません。それをしないと、「これは仕事ではない」と雑務をおろそかにしてしまいます。教える側は面倒であっても、小さな仕事こそ、目的を教えるべきです。目的を教えられないのなら、教える側が今まで何も考えずにやっていたということになります。

また、新人だけに原因を求めるのは正しくありません。

たとえば入社前の研修で、身だしなみについて教えたとします。

しかし上司たちの身だしなみが整っていなければ、新入社員は「やらなくてもいいんだ」と解釈します。若い社員が仕事をサボるのは、たいてい上の人がサボっているからです。

新入社員は、上司や先輩の行動をしっかりチェックしています。新人に教える方は、まず自分が模範となることができているのか、再確認してみるべきだと思います。