「失敗しないような環境」で新入社員は育たない

社会人としての経験は少なくても、責任を負って人の上に立たなくてはなりません。それは相当プレッシャーがかかることですし、新入社員にとっての修羅場体験にもなるでしょう。その試練を乗り越えられたら、社会人として一回りも二回りも大きく成長できます。

企業という単位に限らず、少人数のチームでも、誰もがリーダーの視点を持って仕事に取り組むほうが仕事はスムーズに回ります。そのためにも、早い段階でキャリアアップさせるのは有効な手段です。

安定した店の運営を考えるのであれば、入社10目ぐらいの中堅社員に店長を任せたほうが安全かもしれません。最初から大きなトラブルもなく、スムーズに運営できるスキルは備わっているでしょう。新入社員は本部に配属して先輩社員のサポート的な仕事から始めてもらったほうが、本部としても目を配れます。

しかし、それでは新入社員の育成にはつながりません。

私は、仕事は失敗しながら学んでいくものだと考えています。失敗をしないような環境を企業やチームが整えてしまっては、いつまでたっても新入社員は育ちません。

失敗をしたときに、誰に相談すればいいのかを考えるだけでも、社会人として大切な訓練になります。そうやって「何とかする力」は養われていくものです。

若者が育つかどうかは周りの環境次第

新入社員は、最初は仕事ができなくても、わからなくても当たり前。新入社員を教える側がそれを受け止めて許容できないと、人を育てることなどできません。育てる側が、未来を見る視点を持つことが大切なのです。

確かに、新入社員をいきなり厳しい環境に放り出すのは酷でしょう。

松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)
松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)

無印良品でも、最初は新人スタッフの一人というポジションから始めて徐々に環境に慣れてもらい、それから店長へとキャリアを歩んでもらう道筋を整えています。修羅場体験をさせるにしても、それなりの土台をつくってからでないとつぶれてしまいます。

また、新入社員を受け入れる側の店長には「受け入れ研修」を実施します。「新入社員が入ってきたら、この期間内に、ここまでを教えてあげてください」といったことを、具体的に説明するのです。「受け入れる側の態勢」もきちんと整えることで、新入社員の「土台」をつくっていきます。

そうした環境で、周りの上司や先輩が生き生きと働いていたら、新入社員も出世を嫌がるようになることはありません。結局のところ、若者が現状維持より向上を望むのは、周りの環境次第なのではないかと思います。

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