リーマン・ショックで夫に異変が…

「息子も幼稚園に通う年齢になり、子育てするなら郊外のほうがよいだろうと家を購入しました。ニュータウンの中でも新築が立ち並ぶ新しい一画で、日当たりもよく庭の広い戸建て住宅です」

しかし、転居の直後、夫の会社をリーマン・ショックの波が襲う。大口の取引先から次々と発注を取り消され、数十億円もの減収になったのだ。

「総務部で社内改革に取り組んでいた夫は急に部署が異動になり、残業が続くようになりました。その頃から、夫の様子が徐々におかしくなりはじめました」

夫は深夜11時すぎに帰宅すると缶酎ハイを何本も浴びるように飲みはじめ、言葉の暴力も増えていったという。木村さんの両親はすでに亡くなっており、姉は結婚して九州にいる。ママ友にも相談できず、悩みを誰にも打ち明けられないままだった。

「翌年に、夫は都内の本社から千葉県の支社へ異動になりました。通勤時間は短くなったはずなのに、毎日『疲れた』と口にするんです。毎晩うなされるし、心配でした」

そんな最中、息子の誕生日会を自宅で開くことになった。

「お友達をたくさん招いて、楽しくやろうということになりました。息子はとても楽しみにしているのに、夫は仕事を優先して準備を手伝ってくれません。そこで『準備する気あるの?』と確認すると、いきなり頰を叩かれました」

結婚当初に夫と描いた未来予想図はすべて崩れ去った

以降、夫は手こそあげないが、言葉の暴力は増えていった。帰宅時に風呂が沸いていない、味噌汁がぬるい、話を聞く顔の表情が気に入らない……と、難癖をつけては木村さんに乱暴な言葉を浴びせていく。コーヒーフィルターを買い忘れただけで、腕を強く摑まれて、青あざができたこともあったという。ちょうどこの頃、夫のボーナスは目に見えて減額し、経済状態はよくなかったのだが、夫はこれまでの浪費生活を改めようとはしなかった。

「そこで家計を助けるためパートに出ることを提案したのですが、『俺の稼ぎが少ないってことか。おまえのやりくりが下手なんだよ!』と激昂。どこに怒りのスイッチがあるのかわからない状態で、意見なんてできません。毎日、彼の一挙手一投足にビクビクしていて、落ち着く日はありませんでした」

それでも、長く専業主婦生活を続けていた木村さんには、離婚の選択肢はなかったという。しかし、異動から1年後、ついに夫はリストラされる。その後も求職活動に失敗しては妻に暴言を繰り返す。都内の私立大学を目指していた息子は、「お父さんと一緒に暮らさなくていいならどこでもいい」と、学費が安く寮のある専門学校へ進学を決めてしまった。

「結婚当初、夫と描いた未来予想図はすべて崩れ去ってしまいました。我が家にあったのは、理不尽な言葉の暴力と息子の失意の姿だけです。あの子は、家を出ていく日『お母さんも早く逃げないと殺されちゃうよ』と忠告してくれました」