さて、ウイスキーが体の奥に灯をともす頃、待望のスモークチーズも完成する。早い。あっという間だ。まあ、ここに至るまでの工程も極めて簡単だったため、そう感じたのかもしれないが。
アルミホイルを敷いた中華鍋に桜の木のチップを入れ、弱めの中火で加熱して煙が出てきたら、チーズをのせた網を鍋に入れる。あとは蓋をして、燻すだけ。これは熱燻といって、低い温度で長時間燻す冷燻に比べ、難易度がぐっと低い。しかも素材がチーズである場合、熱燻ならではの“お楽しみ"もあるらしい。
そして肝心のチーズは、ごく普通のプロセスチーズを用いるところがまた渋い。なぜプロセスチーズなのか。達人は言う。
「いろいろ試したのですが、プロセスチーズの組成が燻製に合うんだと思います。それにもとの味がシンプルですから、燻しのわずかな渋みが生きるでしょう」
なるほど。さて、いよいよ味わうときがきた。出来たて熱々を口に放り込む。ああ、これは見事。少し硬くなった表面とは裏腹に、中はとろけるような食感じゃないか。一口齧れば燻香が口中から鼻へと抜けていく。旨い。本当に旨い。
材料はどこにでも売っているプロセスチーズで調理器具もごく普通ならつくり方も極めて簡単。それでいて、これだけ旨いのだから、なんとも痛快な気分だ。
場所を選ばないことも、中華鍋スモークのいいところだ。排煙設備がしっかりしているならキッチンでもいいし、隣近所に配慮して風向きをきちんと読めばベランダでもできる。もちろん青空の見えるキャンプ場などで、中華鍋をたき火に見立ててアウトドアを楽しむのもいい。
それにしても、実に愉快なスモークチーズづくりを教わったものだ。この週末、さっそく桜のチップを買いに行くことにしようか。
(文・大竹 聡 撮影・岡倉禎志)