なぜ素人たちは「不動産投資は儲かる」を信じたのか

それにしても、およそ1200人もの人たちは、なぜ、どのようにして「かぼちゃの馬車」のオーナーになったのか。その1人、関口さん(仮名)の話を紹介しよう。

女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」の物件
女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」の物件(写真提供=全国賃貸住宅新聞社)

関口さんは、都内に住む40代のサラリーマン。2016年に、スマートデイズが運営するシェアハウス「かぼちゃの馬車」を購入した。購入のきっかけは、スルガ銀行の支店で開催されたセミナーに参加したことだった。「都内の新築不動産で利回り8%」「東京で働きたいという地方にいる女性を応援するシェアハウス」「賃料0円でも儲かる新不動産ビジネス」などと聞こえのいい言葉が並べられたスマートデイズ元社長の話に、「これはいい」と共感したという。

都内に自宅以外の不動産を持てるステータス感、銀行の預金金利や投資信託よりはるかに高い利回り、新築というプレミア感、さらに、賃貸経営で不安な空室による家賃収入の不安定さを払拭する家賃外収入を得るビジネスモデルと、女性の社会進出を支援する社会貢献度の高いビジネス。これだけ聞けば、不動産経営の経験がない一般のサラリーマンでも「うまくいく」と信じてしまうのも無理はない。

セミナー参加後、購入を決意した関口さんは、半年後には、シェアハウスオーナーとして家賃収入を得ることになった。セミナーの説明通り、毎月定額の家賃が振り込まれた。当時は、その振り込みが続くと思って疑うことはなかった。

「これは危ない」――不安は的中した

だが、それから1年後。支払う家賃の変更に関する通知が届いて、安定した生活は一変した。運営していたスマートデイズが、オーナーに支払う毎月の家賃を全額は支払えなくなったというのだ。当面、銀行への借金返済額のみの支払いになるという通知と同時に、銀行との融資交渉を勧める案内が同封されていた。

これは危ない──。そう思った関口さんは、融資を受けたスルガ銀行に返済条件の見直しについて相談したり、知り合いの不動産会社、弁護士などに、今後の対応について相談したりしながら、家賃全額が振り込まれなくなる日も近いのではないか、と戦々恐々としていたが、不安は的中した。

2018年1月、スマートデイズからオーナー向け説明会の案内が届き出席したところ、「オーナー様に家賃を支払うことが困難な状況です」という説明があったのだ。聞けば、サラリーマンや医者などに、シェアハウスを販売し急拡大してきた同社だったが、入居者獲得に苦戦し、全体の入居率はわずか30%台だった。会場内には「なぜ、こんなことになってしまったのか」と、頭を抱えるオーナーの姿が多く見られた。

スマートデイズ倒産後、関口さんは管理を別の会社に委託した。家賃は下がってしまったものの、スルガ銀行との交渉でなんとか金利を下げ、元本返済も待ってもらっている──。そんな状況だった。

「かぼちゃの馬車」オーナーに共通するのは、不動産投資や賃貸経営についてろくに学ぶこともせず、シェアハウス販売業者のセミナーや営業マンと化した知人の甘い言葉に夢を見て買ってしまったことだ。もちろん「かぼちゃの馬車」に限っていえば、銀行も業者と結託していたという不正もあり、不動産業界に精通していないとわからない取引もあった。それだけに不動産投資をする際には、まず十分な情報、知識の習得が必要になる。