「平日優遇策」の恩恵を受けるのは裕福なご隠居さん

さらに今回、岸田首相の突発的な思いつきにも見える「平日優遇策」は、よりいっそうその恩恵を受け取れる人をごく一部の人に絞り込む。岸田首相の発言は、昨年の経験から週末に旅行者が殺到しないよう、人出を平日に分散・平準化したいとの意図によるものかもしれない。確かにそれは理にかなっている。

しかし、そもそも多くの人出が土日祝日に集中するのは、平日に休みを自由に取れない人が、いまだに多いからではないのか。

確かにコロナ禍によってテレワークや時差通勤など、働き方の多様化は加速したようにも見えた。しかし第一回目の緊急事態宣言時にテレワークを実践した数々の企業も、宣言が繰り返されるなかでテレワークをやめ従来通りの「通勤」に再び回帰させていったことは、二回目以降の宣言下の平日朝の満員電車のありさまを見れば明らかだ。コロナが収束するより先に、とっくに働き方だけは「かつての日常」に戻ってしまっていたのである。

このような因習から脱却できない現状で岸田首相の意向通りに「GoTo平日優遇策」が運用された場合、その恩恵を受けることができるのは、どのような人たちだろうか。

サービス業や販売業など、土日がむしろ商売になる業種の人たちの休日は平日に設定されているだろう。しかし旅行するには連休がなければ無理だ。平日に連休が取れても学校に行っている子どもがいる家庭も無理だ。けっきょく平日に連続した休日が自由に取れてなおかつ金銭的余裕のある人となると、言ってみれば「裕福なご隠居さん」のような人、こういった人にしか恩恵はもたらされないのではなかろうか。

渓流を楽しむシニアカップル
写真=iStock.com/petesphotography
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この策では週末の混雑は解消しない

「平日優遇」の恩恵にあずかれる人がこのように限定されてしまっている現実があるかぎり、岸田首相の意図する週末の混雑回避は実現されない。いくらボーナスポイントを付与しようが、平日休みを自由に取りにくい多くの勤労者にとっては無縁の話だからだ。

どうしても平日優遇策で週末の人流を抑制しつつ観光業界を支援したいというのであれば、まずは多くの勤労者がいつでも何度でも自由に気兼ねなく平日に休める社会システムを構築してから提案していただこうではないか。話はそれからだ。