「『婦人の為に設けたる待合室及車室等』(鉄道営業法34条2号)に女性専用車両は該当しないというのが、国土交通省の考えなのでしょう。女性専用車両は女性向けのサービスで、男性の乗車を刑罰によって禁止するほどの強力な法的意味は持っていないことになります。実際、女性専用車両のステッカーには、違反した場合の罰則も書かれていません。罰則が明記してある車内暴力に関する警告ポスターなどとは異なります。『婦人の為に設けたる待合室及車室等』で想定されているのは、もっと厳格な排他的領域をいうと考えられます」

そもそも、鉄道各社も男性を完全に閉めだしているわけではない。たとえばJR東日本は女性専用車両のステッカーに「小学生以下の男の子、お身体の不自由な方とその介助者の男性にもご利用いただけます」と記載。こうした対応は他社も同様で、常識的な範囲で男性客の乗車は認められている。

気になるのは、女性専用車両が本当に痴漢防止に役立つのかという点だ。その答えのヒントになる調査がある。警察庁設置の有識者会議「電車内の痴漢防止に係る研究会」は10年、電車内の痴漢で検挙・送致された被疑者に対して意識調査を実施した。被害女性を選んだ理由を尋ねたところ、もっとも多い回答は「偶然近くにいたから」(50.7%)。被害者に目をつけた場所や日にちについては、「電車の中で」(78.1%)、「検挙されたその日」(80.8%)が断トツに多かった。犯行が場当たり的ならば、女性専用車両の設置は一定の効果が見込める。ならば多少の不便はやむなし、というのが多くの男性の心情だろう。ただ、監視カメラ設置や増便による混雑緩和など、できることはほかにもあるはず。「この車両は男性が乗っても平気?」といちいち迷うことなく乗車できる日が、早くやってくることを期待したい。

(PANA=写真)