産業空洞化が懸念されている。最近ではリーマンショック以降、メーカーの海外移転が目立った。先進国の経済の落ち込みに対して、急成長が著しい“アジアの需要”を取り込むために、工場だけでなく研究開発拠点も中国などに移している。そこに今回の東日本大震災が起き、この動きはさらに加速しているようだ。
その理由を、東レ経営研究所シニアエコノミストの福田佳之氏は「日本の製造業を苦しめる“六重苦”にある。すなわち、円高、高い法人税率、厳しい労働規制、TPPなど貿易協定対応への遅れ、過大な温室効果ガス削減、そして、震災後の電力不足と高い電気料だ」と指摘。結果、企業はBCP(事業継続計画)の選択肢として生産活動を海外にシフトしている。
問題なのは、空洞化の進行が貿易におよぼす影響だ。日本からの輸出が減り、逆輸入が増えることで、本来なら国内生産で得られていいはずの利益を失ってしまう。損失の増加は、1990年代半ばから続いていて、同研究所の推定では2010年度で42.7兆円のマイナスになるという。このままでは国内の生産や雇用が打撃を受け、日本製造業の活力が削がれかねない。
こうした状況は震災復興の足枷にもなってしまう。それを回避する処方箋を福田氏は「まず政府がすべきことは、企業に対する抑圧的な姿勢を改めて、過重な負担を改善すること。次に輸出産業の競争力を、より強くしていくことに力を入れるべき」だと提案。できるところから空洞化を食い止める必要があるだろう。
(ライヴ・アート=図版作成)