私は早朝に出社して深夜まで社内で陣頭指揮を執るといった「モーレツ型」の社長ではありません。出社は9時頃で退社は18時頃。社内で過ごす時間は必要最低限だと思います。社外での時間を何に使っているかといえば、顧客との商談や会合に加え、有志での勉強会に参加していることが多くあります。
日中は業務を優先しているので、割ける時間は朝か夜になります。ときには朝と夜に勉強会が入ることもある。内容は様々です。経営者同士で金融政策を話し合う。中国古典や歴史書を輪読する。国内外の専門家から環境問題の講義を受ける……。ただし会社の経営に直結する話題はほとんどありません。
では、なぜ時間を費やすのか。それは経営者の仕事とは、いちはやく社会の大きな流れを感知することだと考えているからです。俯瞰ができず、目の前の効率だけにとらわれていると、取り返しのつかない失敗を招くのです。経営に邁進するのは当然。そのうえで、社会の動きに応じた手を打つ。勉強会で手がかりを探すわけです。
読者の皆さんに勧めたいのは歴史研究です。歴史を学ぶと、社会や組織が同じような失敗を繰り返してきたことがよくわかる。意外にも人類はまるで成長していないのです。たとえば旧日本軍を組織論の観点から分析した『失敗の本質』からは、組織の硬直化を招くものは情緒である、という普遍的な知見が得られます。
経営者の仕事とは、同じ失敗を繰り返さないこと。失敗を“体験”した際には、それを“体験”に替え、さらに“知見”へと昇華させる。そのための視座を養うことです。ときに経営者は非情な決断を迫られる。そのとき歴史の学びは冷静な判断の助けとなります。
ローソンは、私が社長に就任した2002年に大幅な業績ダウンを経験しています。00年の株式上場に向け、無理な出店を重ねていたからです。このとき私は「売り上げ至上主義はもうダメだ」と言い、不採算店の整理を断行しました。この年は約500店出店したものの、約600店を閉鎖。店舗純減は史上初のことでした。激しい反発を受けましたが、以後、大規模な閉鎖はしていません。
※すべて雑誌掲載当時