●上野さんからのアドバイス

2009年の夏、東京・お台場に登場した実物大のガンダムが話題を呼びました。動員は415万人。目標は150万人でしたから、予想を超えたヒットイベントでした。成功した理由を後付けで解説することはできます。しかし、それを事前に説明することはできません。というのも、「お台場ガンダム」は直感でひらめいた企画だったからです。発案当初の企画書にはもっともらしいことを書きましたが、本当は企画趣旨をロジカルに説明することすら難しかったのです。

直感を生むための方法論がないわけではありません。いい企画を生み出せるかどうかは、インプットする情報量に左右されます。

情報には、言葉や数字で明確に示せるデジタル情報と、言葉では伝えられないアナログ情報があります。このうち大ヒットする可能性を秘めた企画のもとになるのは、アナログ情報のほうです。「うまく説明できないけど売れそうな気がする」というアイデアは、アナログ情報の集積の中から紡ぎ出されます。とくに人の感性に訴えかけるエンターテインメント業界では、この傾向が顕著です。普段からアナログ情報にどれだけ触れているかで、直感力に差が出るのです。

ところが、多くの人はアナログ情報よりデジタル情報に頼ろうとします。その原因は2つ考えられます。

デジタル情報は効率的にインプットすることが可能です。一方アナログ情報は、自分が現場に身を置いて肌で感じるしかありません。たとえばイベント会場の熱気は、あとで人から聞いても実感しにくいものです。現場の空気を情報として蓄積するには自分で直接足を運んで体験するしかなく、時間と手間がかかります。

またデジタル情報は、ロジカルに組み立てることで合理的に結論を導き出せます。そのため必要なデータなのかどうかの選別が比較的容易です。一方、アナログ情報はどのように役立つのかがわかりにくく、結果として無駄になるケースも多いのです。

しかし、この手間を惜しんでいては、いい企画を生み出すことはできません。アナログ情報は宝の山。意識的に外に出てアナログ情報に触れるべきです。

残業しないという習慣は、ここでも役に立ちます。私は定時に仕事を終えると、好奇心のおもむくままに街をぶらつきます。行列ができている店があればとりあえず並び、隣に座った人に話しかけたりもします。社長になってからは車で移動する機会が増えたので、ときにはわざわざ帰りのラッシュの電車に乗ることもあります。とにかく社内にいてはわからないことを積極的にやってみます。

このとき、つくり手側、つまり会社のロジックで物事を見てはいけません。世の中は会社ではなくお客様の都合で動いています。ですから会社を一歩出たら、一人の消費者としてアンテナを立てます。これでアナログ情報に対する感度もぐっと高まります。とくにマネジメント層は、会社のロジックが体に染みついているものです。意識して自分をリセットすることが重要です。

※すべて雑誌掲載当時

HRインスティテュート代表取締役 野口吉昭
横浜国立大学工学部大学院修了。建築設計事務所、コンサルティング会社を経て、1993年HRインスティテュートを設立。『コンサルタントの習慣術』『コンサルタントの「質問力」』など著書多数。

バンダイ社長 上野和典
1953年、神奈川県生まれ。77年武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部卒業、バンダイ入社。2001年取締役、03年常務、05年社長。趣味は料理、絵を描くこと。著書に『給料を上げたければ、部下を偉くしろ』。

(村上 敬=構成 芳地博之=撮影)