既存の物流網を生かしてエリア拡大

家庭用の売り上げを伸ばす戦略がもう一つある。即日配送可能エリアの拡大だ。現在、カクヤスが出店しているのは、東京23区や横浜、川崎、さいたま市などの首都圏と、大阪市中心として大阪エリアのみだ。他エリアの都市部に出店する余地はある。

配送のバンに荷を積み込む
写真提供=カクヤス

「ゼロから立ち上げると時間がかかります。大阪進出時は自分たちですべてやったので、黒字化するまで20年弱かかってしまいました。新たに他エリアに進出するとしたらM&A。すでにある程度の規模の店舗・物流網を持っているところと組んで展開することになるでしょう」

すでに動き出しているエリアもある。2020年5月に、福岡県福岡市で酒類販売を行うサンノー株式会社を、12月には同じく福岡市で酒類販売を行う株式会社ダンガミの株式を取得して子会社化した。

「どちらも業務用の会社で、家庭用配送はやっていません。しかし、両社合わせて100億円の規模があり、それをさばけるだけの物流網はすでに構築されています。『なんでも酒やカクヤス』のように店舗展開するかどうかは別にして、既存のBtoB物流施設に家庭用をプラスしていくのは難しくない」

コロナ禍から回復するタイミングがチャンス

コロナ禍で、業務用の酒販店はどこも厳しい。業績が悪化して株式の評価額が下がるときこそM&Aのチャンス。福岡のケースのように今後も積極的に買収するのか。そう水を向けると、佐藤社長は「福岡の2社は以前から話を進めていて、たまたまコロナに重なっただけ。理想のタイミングは今ではない」と答えた。

「たしかに酒屋さんは厳しい。しかし、トラックを半分売ったりして耐え忍んでいます。困るのは、むしろ回復する局面でしょう。トラックを半分売ってしまったら、市場が回復しても会社として復活するのは難しい。そのタイミングで私たちが声をかけさせていただくことはあるかもしれません」

M&A戦略には商圏を拡大する水平型だけでなく、川上・川下を押さえる垂直型もある。たとえば同業の大手である株式会社やまや(本社・仙台市)は2013年、居酒屋チェーンを展開する株式会社チムニーを買収している。飲食業界に進出してシナジー効果を狙う選択肢はないのか。これについても佐藤社長は「飲食店はお客様。飲食業界に進出したら、お客様が競合になってしまってうまくいかない」と否定的だった。

緊急事態宣言は、9月末で解除された。しかし、東京都は10月24日までを「リバウンド防止措置期間」に設定して、アルコール提供は感染対策徹底の認証を受けた店に限って午後8時までにするよう求めている。業務用市場の完全復活は、ほど遠い状況だ。

家庭用の即日配達アイテムを増やしたりエリアを拡大したりすることで、どこまで現在の苦境をカバーできるのか。カクヤスのチャレンジは当面続きそうだ。

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