業務用と家庭用の売り上げがほぼ同じに

ところが、コロナ禍で料飲店の営業・アルコール提供自粛が相次ぎ、業務用の売り上げは激減した。佐藤順一代表取締役社長は、コロナ禍のインパクトを次のように明かす。

カクヤス・佐藤順一社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
カクヤス・佐藤順一社長

「業務用の売上は3分の1に減りました。売り上げの構成も変わって、いまは業務用と家庭用の売り上げの比率がほぼ同じになりました。飲食店さんも苦しいと思いますが、協力金が出ます。われわれには協力金がないので、営業自粛がそのままダメージになってしまう」

数字を具体的に見てみよう。21年8月の業務用の売り上げは、コロナ禍前の前々年比で28.7%に減少。家庭用は家飲み需要を受けて126.7%と健闘しているが、もともと7対3で業務用頼りだったため、家庭用の売上増では業務用の売上減を相殺しきれない。全体の売り上げは前々年比56.3%と、半減に近い。

「業務用の落ち込みをカバーするには、家庭用の売り上げを2.5倍にする必要があります。いずれ業務用は復活すると思いますが、そうならなかったときに備えて、家庭用だけでもそろばんが合うような体制にしないといけない」

家庭用注文の“スキマ時間”に何を運べるか

実際、カクヤスは今年に入って家庭用の強化策を次々に打ち出している。6月には、お笑いコンビ「バナナマン」を起用したテレビCMを展開した。カクヤスの商圏は店舗から1.2キロ圏内。これまで地域にチラシをまくことはあっても、テレビCMを打ったことはなかった。創業100年の同社初の試みだ。

5月には、宅配力を強化するため、事業会社内に「カクヤスplus推進部」を新たに設立した。6~7名の部署で、酒類に限らない新規カテゴリーの開発を行う。従来の発想にとらわれずに開発していく予定だが、とくに狙っているのは日用品の消費財だ。

「業務用が減って、配送能力にかなりの余力があります。家庭用の注文は、午前中と夕食前の時間帯に集中します。これまで午後は業務用の配達で忙しかったのですが、いまは配達車の掃除をするくらいしかやることがない。その時間帯にドライで運べるものなら既存の配送網に乗せるだけでよく、新たに仕組みをつくる必要はありません。そこで新たに始めたのがペット用品でした」

実は、時間帯を問わず運べるドライ品として、紙おむつを検討したこともある。紙おむつのようにかさばる商品は持ち帰りに不便で、まさに宅配向き。ただ、かさばることは宅配サービスにとっても足かせになった。

「紙おむつをやろうとしたら、かさばりすぎて在庫を店頭に置けませんでした。そこで普段は配送センターに在庫して、注文があればルート配送で店頭に送り、すぐに配達員が届ける“通過型配送”の仕組みを構築中です。現状では注文からお届けまで2~3日かりますが、いま1日で届けられるようにシステムを開発しています。これが完成すれば紙おむつも家庭用の売り上げに貢献してくれるはずです」

カクヤスがペット用品や紙おむつなど飲食と関連の薄いカテゴリーも手掛け始めているのは、業務用の売上減の穴を埋めるため。生き残るための苦肉の策だったのだ。