対等に扱われず自己肯定感を失っていく女子学生

さて、体力差、またこのような発言を許す風潮は、女子学生の意識も変化させる。

「女子を下に見てる感じ、女子はいらねぇとか、邪魔なんだよとか言われてるような感じがずっとあって嫌だった」
「陸上の初歩的な戦闘戦技訓練が始まり、肉体的な男女の相違をいやおうなしに実感させられるようになってからが特につらかった。総合的な体力は平均的に男性の72%しかない、関節や骨格、筋肉の構造が異なるという前提を認識していないまま、同期の中で対等に扱われたい、同じ基準を満たしたい、または満たさなければならない、でもできない、という葛藤があった」
「同期に助けてもらってばかりの自分が情けなく、そんな人間が指揮官になって何ができるのかと卑屈になった」
「訓練はついていくのがやっと。かといって勉強面で優れているわけでもなく、自分は価値のない人間だと思い込んだ」

松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)
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男子学生についていけないことで、自分が「劣った存在」であると捉えてしまう女子学生が多いことが見て取れる。「十分頑張っている、そこまで思い悩む必要はないのに」という女子であってもだ。

ちなみに、訓練の悩みとしては、陸上は上記のように圧倒的に体力だが、海上の訓練では「船にはワッチ(見張り勤務)があり、夜寝られないことがある。しかも夜寝ていないからといって昼寝られるわけではないので眠かった」「シャワーや洗濯が制限されるのがキツかった」という声があった。

航空からは、「つらかった」経験として訓練の話は一切挙がらなかった(「訓練でつらかったことは何ですか」と聞けば出てきたのかもしれないが、今回は誰に対してもそのような聞き方をしていない)。

「女子のくせに」と言われつづけ頑張ることを諦めてしまう

そんな環境下では「頑張る前に頑張ることを諦める」女子も出てくる。

「本当は意見を出したりまとめたりするのが好きなのに、自分が女子だからという理由でそれができなかった。女子がリーダーになったらみんな嫌がるから」
「同期の女子が学生隊本部で役職に就いた。すると『女子のくせに』とか、『どうせ女子は内恋(内部恋愛)してるからダメだ』という批判が飛んだ」
「目立つ女子の上級生がいろいろ言われているのを聞いていた。頑張って目立てばこんな風に言われるのかと思って前に出るのをやめた」

このように、入校ほどなく、「女が目立つのは大変。そして目立ったら目立ったで悪評が立つ」ことを学ぶ。結果、「女性は一歩引く、我慢するものというのが植え付けられた」と話す者もいる。このような状態で「私は頑張って上に立とう」と思うには、相当の気力がいる。

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