「10%」という共通の数字が勘違いの原因

ポイント還元に似たスタンプカードの場合も、まったく同じ勘違いが起こります。

「10回通ってスタンプが10個貯まると1回無料」は「10%割引」と同じだけの得に思えるかもしれません。

では、具体例で考えましょう。1回あたり1000円のマッサージを想定します。

10回通って1万円払うと次の1回分は無料です。つまり10回分のマッサージを1万円で受けられて1000円割引されたことになるので、割引率は1000円÷1万1000円=9.1%です。10%割引よりも割引率が低いのです。

なぜ「同じ10%割引だ」と思ってしまうのか?

このように、感覚と実態がずれるのは「10%」という共通の数字が示されていることが原因です。行動経済学における「フレーミング」の影響によるものです。これは同じ事柄でも、記述や表現の仕方によって、受け取られ方が異なってしまう心理的バイアスです。

今回の例のように、異なる内容が、提示の仕方で同じように受け取られるのもフレーミングの影響です。フレーミングは英語でいう「枠(フレーム)」に由来しており、まるで一定の枠を通して物事を見ているかのように、誤った解釈をしてしまうというものです。

なぜポイントサービスに惹きつけられてしまうのか

それと同時に「ポイント」の仕組みには、買い手にとって損を忘れさせるほどの魅力があるとも考えられます。一般的なネット販売や航空会社などのポイントサービスに見られる魅力点を、いくつか以下にあげていきます。

①ポイントを貯める楽しみがある
②ポイントの収集状況に応じて、ランクが上がり優遇措置を受けられる
③会員限定の割引や、キャンペーンなどのメリットがある

ポイントサービスは、売り手が買い手を顧客として維持し続けるための手段です。

スタックのクレジットカード
写真=iStock.com/benedek
※写真はイメージです

そのために売り手は、システムの提供費用やポイントの源泉となる資金などのコストを負担します。そのうえで、ポイントサービスの仕組みは、買い手に対して「有形無形の保有物」を提供するという特徴があります。具体的には、以下の3つです。

①収集で増えていくポイントそのもの
②買い手個人のステイタス
③得をするチャンス

行動経済学の視点で見ると、これらが買い手を引きつける理由になります。

さらに、買い手の心の中に、すでに解説した「保有効果」の心理が働きます。自分が保有するモノに高い価値や愛着を感じ、手放したくないと感じる心理です。

この心理は、お金やモノなどの有形物だけでなく、身につけたスキル、自分の評価など無形物に対しても働きます。買い手は、ポイント、ステイタス、チャンスの3つに対して、保有していない他人からは理解できないほど、高い価値を感じるのです。

たとえば、積み上がっていくポイントの数値は、まるで自分自身の努力を示す点数であるかのように思えます。一度、手に入れたステイタスや、会員限定キャンペーンに参加する権利も、手放すことのできない大切なものに見えるのです。