学校で配られた端末でYouTube見放題
「あれ、和哉(仮名)、まだYouTube見ているの?」
昨年9月某日の夜11時。ベッドの上で寝転びながら、動画を見ている小学6年生(当時)の和哉さんを見て、母の小林愛菜さん(仮名)は驚いた。小林家では夜9時以降、クロームブックは使えない設定にしていた。「宿題をやっていた」と言い訳する和哉さんからクロームブックを取り上げて、YouTubeからログアウトしてみたら、家庭で使っているIDとは別のものが入っていた。
「005○○-○○○」
それは、和哉さんの学校で配られたクロームブックのIDだった。
昨年の5月下旬、和哉さんが通う町田市立小学校では、休校中の学習に使えるようにと6年生に一人一台、クロームブックが配られた。
文科省が推進する「GIGAスクール構想」――学校のインターネット環境を整備し、生徒一人に一台ずつ端末を配って教育の情報化を進めていく――で、全国の自治体に「一人一台端末」が行き渡ったのは、今年3月末のこと。この学校での配布はこれより10カ月も早い。一学年だけとはいえ一人一台を配備できたのは、ICT教育推進に熱心なA校長(当時)の方針だった。
A校長は20年以上前から授業でICTを取り入れてきた先駆者で、現在のGIGAスクール構想につながる「学校教育の情報化に関する懇談会」(2010年~2013年、座長・安西祐一郎氏)に第一回から参加。ほかにも文科省の「教育の情報化に関する手引」作成委員(2009年)、「学びのイノベーション推進協議会」委員(2011~2014年)を務めるなど、日本のICT教育推進の旗振り役として知られている。
A校長をそばで見てきたPTA会長は次のように振り返る。
「A校長は、とにかく『一人一台端末』を強く求められてこられました。先生がいらっしゃることでICT推進校に選ばれていた本校ではいちはやく6年生に配れることになったんです。2019年11月には全国から500人くらい先生たちがくる大規模なICT教育の研究報告会が学校で行われて、文科省や経済産業省の方と座談会をされていました。その翌日に、『国で一人一台が決まった。一生懸命、訴えてきたからね』と大変喜ばれていたのを覚えています」
こうして配られた端末は、ゲームし放題、YouTube見放題の設定になっていた。制限がかかっていたのは一部の成人向けや暴力的なサイトだけで、利用時間などの制限はない。やがてこの端末が、家庭や学校に混乱を招き、最悪の事態を招くことになる。
「最初は気づいていませんでした。学校で配られたタブレットなら、当然、時間や検索に制限がかかっていると思っていたんです。ましてやICT教育の第一人者で知られるA校長がいるので、信頼していた。でも、子供の様子がおかしかったので調べてみたら、なんでも検索できるし、ゲームもできてしまう。学校からはクロームブックを使った宿題が出ていて、やけに時間がかかっているなと思っていたのですが、9月の一件で遊んでいたんだとわかったんです」(小林さん)