では、現状でどれだけの日銀引き受けが可能なのか。11年度の予算書の一般総則には日銀直接引き受けの数字が書かれていないが、これを受け、国債発行計画で、12兆円を日銀引受額としている。予算総則での「同行の保有する公債の借換えのために必要な金額」の上限は、日銀の保有国債のうち11年度に償還される額であるが、それは30兆円程度である。となると、日銀引き受けはまだ余裕があり、政治決断さえすれば、11年度の予算の範囲内でも18兆円程度の上乗せが可能だ。
さらに、財務省の国債整理基金には、過去に発行した国債による12兆円のたまりがある。これを合計すると30兆円の財源が誰にも迷惑をかけずに捻出できる。この程度の日銀引き受けなら、市中消化の原則は守られて、通貨の信認を失うはずがない。
そもそも財務省は、日本は債務残高がGDPの2倍、1000兆円もあると消費税増税と財政再建キャンペーンに利用しているが、政府の資産も650兆円、実にアメリカの約150兆円の4倍になる巨額なものだ。霞が関はこれについて口をつぐんでいるが、その多くを隠匿している。私は、増税の前にそれを国民の手にとりもどすべきであると言っているだけだ。
例えば、多額の借金を抱える企業があれば、まず不要資産や保養所、社員の宿舎を売却する。それに本社ビルを売ってリースバックしたり、子会社などを処分するはずだ。ところが、財政赤字の1000兆円が大変だと騒いでいる財務省が、自分たちの宿舎や天下り先の関係子会社は守り、JTや郵政などの有価証券も全部は売らない。それなのに、財政再建のためには税金を上げますというのでは話にならない。政府は現在、JT株の2分の1にあたる500万株を所有しているが、タイミングを見てこれを売却すれば、約2兆円の収入になる。
国のバランスシートを見ると、資産647兆円、負債1019兆円(10年3月末)である。資産の中には、国有財産37兆円、公共用財産145兆円などのほか、現金・有価証券111兆円、貸付金155兆円、年金寄託金121兆円、出資金58兆円と流動性の高い金融資産が多い。647兆円の中には土地や建物など、すぐには換金できないものや、年金寄託金は将来の年金のためにとっておくとしても、おおよそ300兆円の金融資産があり、容易に売れるはずだ。とくに貸付金や出資金などは天下り先の特殊法人に流れているわけで、それらを民営化すれば、天下り法人の廃止と資産のスリム化が一気にできる。国債償還に回せば負債サイドのスリム化にもなる。一般の企業がリストラの過程で資産と負債の両建てのスリム化が好ましいのと同様である。公務員宿舎に限らず国の資産を民間に売却して有効活用すれば、民間経済の活性化にもなる。