3.11後に大量に現れた「怪しい水」
その後、私は、2000年8月に『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』(日本実業出版社。現在絶版)を出しましたが、その本で「筆者が水をもとにした商売で一番悪質だと考えているのは、電気石(トルマリン)という鉱物を使った水です」としました。その後出した『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴァー携書)では「『創生水』はニセ科学の典型」としました。
本を出した当時(2000年代)、ガソリンスタンドに「洗剤を使わない洗車」などののぼりを見ると、「創生水を導入してしまったんだ」と思ったものです。
創生水の名は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故後にも見かけました。
福島第一原発から北西約40キロメートルに位置する福島県飯舘村に放射性物質を消し去るという「創生水」の生成器が置かれたことが話題になりました。
3.11の事故後、福島には放射能を消せるという有象無象の業者が入り込みました。例えば、やはり万能性を謳うEM菌も微生物が放射能元素を生体内元素変換するという主張で福島県に入り込みました。
日本ホメオパシー医学協会(代表:由井寅子氏)は、福島県内で採取した土を希釈したレメディをペットボトルに入れ、河川に投入して放射能を消すとするパフォーマンスをしたものでした。
なお、創生水・EM菌・水素水の3つについて、放射能除去作用を検証した調査があります。結果は、水道水で除染したものと何の差も無いというものでした。
2021年2月に創生水を製造、販売していた創生ワールド株式会社は、創業者で社長の深井利春氏が死去したことと生成器の販売不振により業績が悪化した結果、事業継続が困難となったため破産しました。負債総額は約10億円です。
現在は、aquavivi(アクアヴィヴィ)という商品名で別の会社が販売しています。
生活しているだけで人体は水素を多量に摂取している
私が『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』『水はなんにも知らないよ』を書いたときに扱った水ビジネスの商品は、アルカリイオン水、π(パイ)ウオーター、磁化水(磁石を使って磁化処理した水)、電気石による水(創生水)、波動水でした。
現在入手できる拙著で代表的なものを『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)で扱っています。
分子状水素医学の研究から派生した“水素水”もいまのところ同類です。
実は、大腸には水素産生菌がいて、水素を多量に産生しています。おならの1~2割は水素なのです。大腸内の腸内細菌によって発生するガスは毎日7~10リットルもあります。その成分でもっとも多いのは水素です。
一部はおならとして外部に出ますが大部分は体内に吸収されて血液循環に乗って体内をめぐります。その中の水素は水素水から摂取する水素量と比べてはるかに多量です。
もし分子状水素医学の研究で健康人が水素を摂取してより健康になるという研究結果が出ても、水素水から微量の水素を摂取するより、水素産生が多くなる食べ物を摂取したほうがいいのではないでしょうか。